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第1話
『えー本日の担当は放送委員会委員長、3年の長谷川 成英 だ。今日も朝から雪がしんしんと降っているな。足元にはじゅうぶん注意して過ごすように』
ざわざわしていた教室が、いや、校舎が一斉に静まった。
今日の放送担当がシゲ先輩だからだ。
放送委員の長谷川 成英先輩は有名人だ。
それもイケメンだから、とか成績優秀だからとかスポーツ特待生だからなんて理由じゃない。
ただただ《イイ声》の持ち主というだけの理由。
そんなことかと思うかもしれない。実際、僕も声を聞くまでそんなにも騒ぐことかと顔をしかめたものだった。
でも放送の声を聞いて腰が砕けた。びっくりしたなんてものじゃなく、実際入学してシゲ先輩の声が数々の生徒や教師の腰を砕いてきたことも伝説になりつつある。
なんでこんなに普通のことを言っているのに、愛を囁かれている気になるのかとびっくりするほどイヤラシイ...いや、イイ声なのか。
しかし誰もシゲ先輩が実際どんな人物なのか知らないのだ。
気になった僕は色んな先輩に聞き回ったりしたけど誰も話してくれない。
そりゃこんな近隣でも有名なマンモス男子校だから、顔を知らない同級生が居てもおかしくない。でも誰も語らないなんて何かがあるはずだと、怪しい香りを嗅ぎつけた僕は手を出してはいけないことに手を出した。
そう、放送委員になったのだ。
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