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第9話
「ジュンタを貶す前に、アンタが消えろよ!」
俺は叫んだ。咲良の無表情が壊れた。きっと殺される。もしくは死んだ方がましな生活を余儀なくされるかもしない。そう思った。けれどそんなことはどうでもいい。俺がどうなったって。ジュンタが無事なのなら。
「・・・・・・・・そうかよ・・・・・」
言いたいことは言えたのに、酷く虚しい。こうでしかこの弟に抵抗できない。自分とジュンタを秤にかけるしか。
咲良は俺の首を両手で掴み出した。徐々に力が籠もっていく。
「・・・・っか・・・・はっ・・・」
息が段々としづらくなる。
咲良を見ると、物凄い形相で俺を睨みつけている。その瞳には涙が浮かんでいる。
「・・・・・さ・・・き・・・・ら・・・・ッ」
意識が朦朧としてくる。脳に酸素が回らない。
死ぬのか、と一瞬考えた。絞殺は垂れ流しらしい。コイツに看取られるのは嫌だけど、ジュンタに看取られるよりまともかな。
死んだら終わり。平等だ。憎いこいつにも、ジュンタにも、必ずおとずれる。若かろうが老いていようが。可愛かろうが、醜かろうが。死に方は様々だけれど、逃れられない。
死ぬのは嫌だ。生きていた時のコトを全て無意味にしてしまうから。
でも消されていいことばかりだから・・・・・・
・・・・・・・・もうどうだって・・・・・・
「大城隼汰を、殺す・・・・!!」
「・・・・・・・!!?」
朦朧とした意識が、はっきりと戻った。首の違和感は消えないけれど。今死ねば、次に死ぬのはジュンタ。きっと殺されるんだ。俺は力の入らない手で、咲良の手を掴む。伸びた爪が力無く咲良の腕にめり込む。大袈裟に咲良の手を引っ掻いた。
「・・・・・・・は・・・・なせ・・・・!!」
死ぬ訳にはいかない。俺が死ぬ事はジュンタが死ぬ事。
「どうしてやればいい?アンタみたいに絞め殺そうか?毒殺?少しずつ嬲り殺してもいい!」
「彼さえいなければ・・・・」
咲良はそこまで言って、最後までは言わなかった。どうして咲良がジュンタを憎んでいるのか分からなかった。
「彼さ・・・・えいなければ・・・・?・・・・」
苦しさで頭がおかしくなったのか、無意識に咲良の言葉を俺は復唱した。服従したみたいに。兎に角酸素が欲しかった。死ぬのは怖くない。でも死ねない。死んだらいけない。
「彼さえいなければ、不幸な道を歩まず、人として全うな道を歩めた人がいるんだ」
俺の問いに答えるというよりは、呟くように、自身に言い聞かせているようだった。
「・・・・・・・・・・ジュン・・・・・タ・・・・・・・」
意識が遠くなる。
ジュンタが、極悪非道なチーマーなはずない。
ジュンタと一緒にいて、俺が不幸になるはずない。
――サック~
俺を呼ぶ、明るい声が脳裏に響く。
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