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第1話
兄ちゃん、行ってくるよ、祭音―――・・・・
*
長男は災いをもたらす。長男は川に流せ・・・・・
楢原家にはそんな言い伝えがあった。そしてこう続く。
――特に弟を押し退けて生まれた長男は…
双子にも長男が存在し、楢原家のそれが楢原咲夜 だ。彼は義務教育を終えると、私立高校に入学し、実家と離れて一人暮らしを選んだ。
授業終了のチャイムとともに、前の席に座る少年が満面の笑みを浮かべて振り向く。
「サック~!セブンティワン行かない!?なんかあそこの新作アイスが食べたくてさ」
人懐っこい笑みと大きな瞳。痛んだストレートの茶髪。前髪にピンクのアルミ製の髪留めがついている。去年から同居を始めた大城 隼汰だ。
お互いバイトが無い日は大抵ジュンタと帰る。コイツとの道草はいつでも楽しかった。
「おう。いいよ」
「イェーイ!!ヤリィ」
机に突っ伏していたジュンタは勢いよく跳び上がった。
「そんなに食いたかった?」
「うんうん。あそこの新作ヤケに美味くてさぁ~。オレ、給料日だからさ!!サックーにも奢ってやるよ!!今月ちょっと頑張っちゃった」
何気ない会話。毎日が楽しい。俺がありがとう、と言うと、にかっと笑ってからジュンタは鼻歌を歌い、トイレにでも行くのか教室から廊下へ出て行った。俺は帰り、ジュンタとセブンティワンに寄る姿を想像してみた。ジュンタが美味しいというのだからイマドキの女子高生が好きそうな甘いやつだろう。CMで見た毒々しい色合いのアイスクリームが脳裏を過ぎる。
俺の前の席のジュンタの机を見ると、この前ジュンタがふざけて彫った俺とジュンタとの相合傘の落書きが目に入る。先生に怒られた時、「なんだよ先生、ヤキモチかよ~」と軽くあしらっていた。
「ねぇ、サック~」
少し経って、しょんぼりとした表情の項垂れたジュンタが席に戻ってきた。
「どうしたんだよ」
「先生から呼び出しくらった」
今にも泣き出しそうな仕草でそう言う。
「・・・・・いつ?放課後?」
「うん、そうなんだよ。ごめん!」
顔の前で両手を合わせるジュンタに苦笑した。
「別に俺はいいケド・・・・。どうしたの?何しちゃったんだよ」
「ホントごめん!多分、この前のテスト・・・・」
「そっか」
悪かったんだな、と訊かなくても分かることだった。
「長くなるから先帰ってて!」
はい、と返事をすると同時にチャイムが鳴った。
一日の授業を終え、ジュンタは職員室に向かった。周りのクラスメートは部活の用意や、帰りの用意、友人たちと遊ぶ約束を取り付けている。
俺は自分の席に座って、クラスメートが忙しなく動いている間、ぼーっとそれを眺めていた。ジュンタには先に帰っていろと言われたけれど、帰宅途中にセブンティワンへ寄ればいいだろうと思った。
「電気消すぞ」
担任の先生が教室で一人残っている俺にそう言って電気を消した。ジュンタの荷物はここにあるから、面談が終わったら教室に帰ってくるだろう。
時計を見つめながら特にすることもなく、ぼーっと待っていた。
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