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第2話

 ジュンタとの出会いは一昨年の12月頃。彼はチーマーというか、不良行為を平然とやるような団体の一員だった。どの程度の大きさかは分からないけれど、脱退を希望した際に、「洗脳」という名の集団私刑されたらしい。傷だらけの血塗れの少年が家に上がりこんだ時は驚いた。ジュンタは市内で有名な大城総合病院の院長の息子だった。   俺は昔から家族が嫌いだった。それは咲良――楢原 咲良・・・俺の弟――に対する嫉妬でもあったのかもしれない。それは長男は川に流せ、即ち殺せということだったが、双子の俺達は腹から出てきた順番で長男次男を決めるのは可哀想だということで、長男になっている俺の方も生かすことになった。どこに居ても、自分に居場所はなかった。どんな日だろうが、家族が俺と喋る事など一切無く、どんな日でも家にいれば、俺は押入れに閉じ込められていた。世間体が悪くなるとかで、給食費や教材費は出してくれていたけれど。いつも俺は居ないような存在で、視界に入ろうがないがしろにされてきた。  中学の部活引退時に、生まれて初めてプレゼントを与えられた。新しい家。早く楢原家から出て行け、という意味だ。ある程度の資金援助もしてもらっている。楢原家を出て行くことは本望だ。けれども、俺が楢原から離れることは出来なかった。  俺は私立高校の受験で、入学金免除のクラスで入学した。そして、その高校には俺の弟・咲良もいたのだ。咲良が志望していた公立高校よりレベルの高い市外の私立高校に俺が通うことを、楢原が赦さなかったのだろう。咲良は先代、先々代から続く楢原コーポレーションの社長になる人物だ。何の会社なのか、俺に知る資格はない。  さらに今年度は咲良と同じクラス。  そんな俺だから、ジュンタに依存しているのだろう。初めて俺を大事に、そして必要としてくれる友人。  中学校は違かったものの、ジュンタは俺と同じ高校を志望していたと聞いた。一人には広すぎたし、ここでも俺は独りなのだと感じると、淋しくて空しくて、俺はプロポーズみたいだったけど、「一緒に住まないか」と誘った。ジュンタはホントの弟みたいだった。咲良は本当の弟といっても、あまり関係の無い人間だった。もう彼と付き合う事はないだろうし、付き合いたくも無い。もとから住む世界が違ったというだけの話。  橙色に染まった教室。電気を点けるのも億劫で、机に突っ伏した。遠くでこっちに向かってくる足音が聞こえる。ジュンタだろうか。このまま寝たフリでもしてみようか。 「咲夜」  ジュンタの声とは全然違う、低音。この声の主の方を見た。教室の入り口で立っているのは咲良。背がすらっとして高く、痩身に見えるが筋肉質。同じ顔をしているけれど、咲良の方が男らしい。 「・・・・・・っ」  高校に入って初めて口を利いた気がする。常に男女問わずに囲まれている咲良と、ジュンタや少し仲の良い友人とツルむくらいの俺。あまり咲良に興味は無い為に四六時中彼を凝視している訳ではないから、情報は少ない。時々ジュンタが咲良の事を教えてくれるだけだ。 「何してるの?」  穏やかな口調で、咲良がそう訊ねた。驚いて声が出ない。馴れ馴れしすぎると思った。 「・・・・・・ぁ・・・・」  咄嗟に椅子から立ち上がり、後退った。 「・・・・」 「咲夜!」  咲良と一回目が合って、顔を逸らそうとする瞬間再び名前を呼ばれる。  最悪だった。会いたくもないし、一緒に居たくも無い奴と二人っきりなのだ。 「・・・・・・・・・・・なんだっていいだろ」  何でか幼い頃の面影を全く残さず、切れ長の瞳が俺を睨み付けた。 「・・・・・・・・大城だろ?」  少し声を低くした咲良。それが気に入らない。咲良はドライでどこか冷めている。いつも黙って、読書をしている。それだけで、もう女子は彼に惚れてしまうらしい。友人がまったく居ない訳ではないようで、昼食の時は何人かの賑やかなクラスメートに囲まれながら弁当を食べている。  俺と咲良は何があっても喋らなかった。いや。寧ろ、俺は咲良が嫌いで仕方がない。他人の愛情を教えてくれたのはいつだってジュンタ。両親から注がれる愛なんて分からない。咲良よりジュンタのほうが俺に近いし、弟らしい。俺にはジュンタがいれば両親の今更な愛なんて要らないんだ。

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