3 / 50
第3話
「・・・・・・」
「無視か」
「・・・・・・・・」
「咲夜は大城を何だと思ってるの?咲夜の弟は僕だろ。アイツじゃない。ま、僕はアンタを兄貴と思った事なんて一度もないけどね」
まるで俺が普通の友人かのように話す咲良に違和感を覚える。
「話しかけないでくれ」
「大城とデキてんの?」
「あのさ、なんでお前の頭脳でこんな高校なんだよ。俺への宛て付け?よく両親が許したもんだよね」
咲良の質問には答えず、ずっと疑問に思っていたことを訊ねた。
「まぁ、そう言うなって。アンタが居ない間、大変だったんだからな」
「楢原の家の事なんて知らないね」
「・・・・・・」
「俺はあの家には必要ない。お前等楢原が大っ嫌いなんだよ。もう学校でも何処でも俺に話し掛けないでくれ」
「やだ」
小さく呟かれた拒否の言葉。
俺には与えられなかった物を殆ど持ち合わせた片割れ。愛だとか期待だとか将来だとか。
「アンタに家を与えろと言ったのは僕だよ。家の都合がどうだろうが、紛れも無くアンタは僕の片割れだろう?」
今更恩を売ろうってか。
「僕には楢原家を継ぐ義務があるからアンタに贈れるプレゼントはそれっきりしかない。そしたらどうだ。オトコ連れ込んで。聞いたとこじゃここらで有名なチーマーの幹部だったって?」
元チーマーだろうがなんだろうが、ジュンタはイイ奴。それはもうとっくに分かっている。少なくとも長男を殺そうとする一族よりはまともだと俺は思う。
「アンタが男色なのなら構わないよ」
「でもさ、同居までする?しかもクラスメートで」
「ジュンタを弟とするなら、男色なわけないだろ。邪推はやめてくれないかな」
ジュンタを侮辱するのは、楢原コーポレーションの社長になる男でも赦さない。
「・・・・・・・へぇ、相当惚れてるんだね。アンタが男色だと、僕にも都合がいいんだよ」
「・・・は・・・?何言ってんの?」
「・・・・・・・・ずっとさ、考えてたんだ。もし母上の腹から先に出てきたのが僕だったらって。もしかしたら、今の生活よりアンタのほうが楽かもしれない。それ以前は少し勘弁だけど。もしアンタが弟だったら、アンタ、俺をどう想う?可哀想?哀れ?寧ろ羨ましい?」
一歩ずつ俺に近付いてくる咲良。
「・・・・・え・・・?なんなんだよ。まじ意味わかんね・・・」
静かな口調に美しい笑みを貼り付けた咲良が、どうしてだか怖い。
「僕はさ、いつもアンタに依存してるんだよね」
「・・・・・ワケわかんねぇ・・・・」
後退さる俺。
「俺は、いつも咲夜のコト考えてるのに」
「・・・・・・う、嘘・・・・・」
「嘘じゃない」
もう咲良から手の届きそうな所。
俺は逃げるように咲良から離れていく。考えるより速く、身体が動いた。
「咲夜・・・・・・」
「い、嫌だ・・・・。嫌だ咲良!!俺はお前が嫌いなんだよ!!大ッ嫌いなんだよ!!」
急ぎ足で教室から出て行こうとしたとき、机の脚に俺の脚が引っ掛かった。あせっていた所為もあり、上手く抜け出せない。
同じ血が巡っているはずの冷たい手が触れる。避けようとして大きく視界が揺らいだ。倒れこんでしまった後、すぐに逃げようと半回転して仰向けになる。
「・・・咲夜・・・」
「嫌!!嫌だ!!嫌だぁぁぁ!!!!やめろぉぉ!」
咲良が馬乗りになってきて、俺は叫んだ。
「・・・・・ジュン・・・・・ッ」
叫ぼうとした時、唇を塞がれた。
「・・・・・・・・んぅ・・・・・」
柔らかく湿ったソレは明らかに咲良の唇。後頭部に両手を添えられ、何度か角度を変える。
遠くで聞こえたジュンタの声。自然と涙が零れる。きつく閉じた唇が抉じ開けられる。止め処なく溢れ出す涙。
何度も咲良の胸板を叩き、抵抗するのに。口内を犯されている所為でまともな反抗は出来ない。
唇からの違和感がなくなった。唾液が糸を引いている。
「大城とは・・・ヤったの?」
妙に優しく俺の髪を梳きだした咲良に何度も首を振る。いくらなんでも、そんな爛れた関係だと思われたくはない。
「へぇ」
そう言いながら、笑うと、咲良は俺のワイシャツからズボンを指で辿っていく。
「咲夜は僕から逃げられない。もし逃げたら大城・・・・・・・・・どうなるか、分かってるよね?」
背筋が凍った。甘やかすような色気のある声と内容のギャップに鳥肌が立つ。楢原の財力を使えば不可能ではない話だ。それがまた現実味を帯びていて恐怖を煽る。
「・・・・・・」
「いいね?咲夜の背負ってるのは自分じゃない」
ただ頷く事しか出来ない。ジュンタに何かされては困る。
「・・・・・・・・ホント、複雑だなぁ。そこまで好きなの?」
悔しさと、気持ち悪さに涙を零しながら俺は咲良を睨んだ。
「・・・・ッひっ!!」
咲良はというと、俺の表情に構うことなく好き勝手に俺をいじっている。そして突然下半身を触れられる。しかも、俺自身。
「僕は咲夜と大城が一緒にいること、良く思ってないんだよね・・・・」
何をされるのだろう、俺は咲良にされるであろう行為に恐怖し、頭の中はパニックになっていた。
「たす・・・け・・・・てジュン・・・・・タ・・・・」
駆け巡る単語。無意識に呟いた言葉。ただ一人の俺の味方。
咲良の手の動きが停止する。
「どうして?どうしてだよ。なんでアイツなの?なんで僕じゃないのかな・・・」
落胆したような声。乱暴に、穿いていたズボンを膝まで脱がされる。抵抗は許されない。
ともだちにシェアしよう!