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第九話

 パチリパチリと薪の弾ける音がする。  伊太郎が目を覚ますと、まだ部屋の中は薄暗かった。見覚えのある自分の部屋とも、肌に馴染んだ布団とも違うのに妙に落ち着く。不思議と違和感はなかった。  軋む身体で起き上がると、かまどの前で火加減を見ていた万蔵がわざとらしく目を見開いた。 「なんだ、起こす前に起きたのか。もうすぐ飯が炊き上がる。味噌汁も作ってやるから、今のうちに顔洗ってきな」 「ん〜……ところで、今は夕方かい?」 「寝ぼけてやがるのか、馬鹿なのかどっちだ。一晩しか進んじゃいねぇよ。朝だ」 「ってぇことは、おいら、遅刻しねぇ時刻に起きられたのか」 「驚いてねぇで、支度しろ。今日も遅れる気か」  火吹き竹でさされ、伊太郎は昨晩脱ぎ捨てた褌と股引をたぐり寄せた。  今度、万蔵の家で着るためのボロの浴衣と、洗いがえの褌を持ってこようと思いながら。

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