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第92話
「ファーストフード店、コーヒーショップ、コンビニ店員、スーパーのレジ打ち……俺にできるかな…」
「なに、あんたバイトするの?」
家に帰るなり、リビングのソファの真ん中を陣取って座る。今日は珍しく母さんがいて、少し離れたダイニングテーブルにもたれ掛かりながらそう問われる。
「うん、どうせ暇だしね」
「あんたを社会に出して大丈夫かしら。おっとりしてると言うか、物事を知らなさ過ぎるというか… とにかく心配だわ」
「えぇ、俺もう子どもじゃないし」
母さんが心配する気持ちは分かるが、俺だってもう子どもじゃない。高校生になったし、バイトしてお金を稼ぐことが出来る。
それに、社会経験になると思う。
母さんは微笑んで、俺の頭を優しく撫でた。
「まだまだ子どもよ。母さんからしたね」
「またそんなこと…」
普通の男子高校生なら親に頭を撫でられたら嫌だろうけれど、俺は嫌とかそう言う気持ちはなくて、ただ俺って愛されてるんだな、と思う。
だから拒否しないし、母さんの好きにさせる。
普段あまり会うことがないからかもしれないけれど、こういう親子の時間を大切にしている。
母さんだって、きっとそうだろう。知らない間に大きくなった自分の子ども。幾つになっても可愛らしい子どもなのだ。
「母さんの知り合いが経営してるカフェがあるの。ちょうど人手不足って言ってたから、そこで働いてみたら?話通しておくから」
「ほんと?!ありがとう!」
気を利かせてくれたのか、母さんの知り合いの経営するカフェで働くことになった。
カフェ店員か……なんかカッコイイ!
想像すると、とてもやる気になってきた。 母さんはその光景を微笑ましそうに見つめていた。
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