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第23話

聞き間違いだろうか。 きっとそうだ。 先生ほどのイケメンが男で童貞を捨てるはずがない。 なんの反応も示さない俺に先生は不思議そうな顔をしていた。 「聞こえなかった?茜くんだよ。初めての相手」 「ほ、ほんと……?」 そうだって言ってんじゃん、と少し不機嫌気味で返された。 だって信じられないだろ。絶対童貞じゃなかったよ、でないとあんなにセックスが上手いはずがない。 俺だって童貞だけどいきなりあんな事しろなんて言われてもできない。 「すごい疑うね」 「だって信じられないじゃん! 先生めっちゃかっこいいしスタイルいいし頭いいのに!なんで男で童貞捨てちゃうんだよ!」 「褒めてるのか貶されてるのか」 ふふっと微笑んで、俺の顔を大きな手で包む。 指が長くて、骨ばっていて、男らしい手だが美しい。 「俺ね、結構潔癖症なんだ。だからキスもセックスも気持ち悪くて一生しないって思ってたんだけど」 「俺、気持ち悪かった……?」 「まさか。 何故か茜くんは平気なんだよね。長い付き合いだからかな?」 たしかに家庭教師として雇ってから1年が経とうとしている。 週3日、2時間~3時間の短い時間だが、それなりに楽しい。 先生は俺の事を生徒としか思っていないだろうけど、俺は先生の事が好きだし尊敬している。 初めてあったその日から一目惚れし、片思いを続けて約1年…… 俺って結構一途なんだなぁ、としみじみ思う。 しかし付き合いが長いから平気、と言うのはどうなのだろうか。なんか違う気がするが…… 実は俺の事が好きだから平気とか、考えたりして…… そんな訳ないと思うけど、もしそうだとしたらすごく嬉しいなぁ。

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