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第7話
そしてたけ丸が城へ戻り三刻ほど過ぎ、日が真上に昇る頃…
再び馬に乗り、一之介へのお土産を抱え、あの橋まで戻ってくる。
「一之介!一之介っ持ってきたよ」
そう着物などの荷物を持ち、橋の下を覗くが…
「…一之介?あれ?」
そこには誰もいなかった。
さらに朝にはあった、包丁や道具類も全て無くなってガランとしていた…
「え、一之介?」
奥に進むと、そこには…
文字が書かれている木の皮にが無造作に置いてある。
一之介からの手紙だ。
『たけ丸へ
逢いにきてくれてありがとう、生涯忘れることの出来ない日になった。俺はたけ丸の温もりを一生忘れない。だがお前は、ただの浪人の俺とは違う、沢山のものを持っているからそれを大切に、俺のことは忘れて、新たな主の元で幸せに暮らしてくれ、もうここには戻って来ない、探さないでくれ、世話になった 一之介』
「…っ、一之介!?」
持っていた荷物が手から零れおちる。
一瞬何が書かれているのか頭で理解出来なくなってしまう。
「どうして…一之介? 一之介ッ」
先刻まで一緒に時を過ごしていた一之介が居なくなってしまった…
その現実…到底受け入れがたい。
ようやく逢えた一之介…
姿を消すこと、何も伝えてくれなかった。
「やっと、逢えたと…思ったのに、っ」
どうしようもない哀しみが身体中を駆け巡り、たけ丸はその場で泣き崩れてしまう。
一之介が居たその場所に縋りながら…
それから、繋がりがある唯一の場所、毎日その橋に通うたけ丸だったが、そこに一之介の姿はなく、忽然と消えてしまった。
殿様の寵愛していた家臣が、浪人と密会などしていることが露見すれば、一之介もたけ丸もただでは済まされないだろう。最悪手打ちで殺されることだってありえる時代。
先々のたけ丸の幸せを想えばこその一之介の行動だったが…
あまりの突然の別れに、心が追いついていかず、哀しみに暮れる日々。
そして、別れを選んだ一之介もまた…。
お互いに逢いたくて仕方がなかったたけ丸と一之介、二人の再会は、一夜限りの逢瀬となってしまったのだった…。
【戦国の世 儚き一夜の夢。終了】
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