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第6話
「…違わない、…何も、変わってない…」
「……」
「確かに、僕は殿様に見初められて、身は殿様のものになったけど、心はあの時のまま…何も変わってない…僕はたけ丸だよ、一之介のことが大好きなたけ丸だから…」
そっと背を向けた一之介に寄り添うように囁く。
「……」
そんな、可愛いたけ丸に心が揺らぐ…
(たけ丸…)
駄目だ、このまま抱きしめてしまえば…
戻れなくなる…
たけ丸を離したくなくなる。
「一之介…」
けれど…ずっと待ち焦がれていた、その姿に…
目の前で涙に瞳を濡らすその存在を拒否し続けることはできなくて…
一之介は振り返り…
「ッ…たけ丸ッ」
想いが抑えきれず、その名を呼び、優しくその身体を抱きしめる。
「一之介…っ逢いたかった」
名を呼ばれたことが嬉しくてその身体に縋りつく。
「俺も、本当はずっとずっと逢いたくて、たけ丸を忘れた日は一日だってなかった、迎えに行けなくて、本当にごめん」
「…一之介、ありがとう」
涙で瞳を潤ませながら見つめるたけ丸。
「…たけ丸、好きだ…」
「……ん、」
ごく自然な流れで口づけを交わし…
抱き合う二人…
たけ丸の解けた髪を愛しく撫でて…
何度も唇を重ね…
逢えなかった三年の時を埋めるように…
その夜、深く深く…愛し合うのだった…。
翌朝。
二人は橋の下で、三年前のあの日と同じように寄り添って眠っていた。
(……たけ丸)
先に目覚めた一之介は傍らで安心しきって眠るたけ丸を見つめ愛しく思う。
(綺麗になった…本当に、)
元々可愛い顔つきをしていたが、三年の間に、たけ丸は想像を遥かに超えるほど、綺麗に成長していた。
一之介は三年前、別れた時から今まで、山や川で狩りをし、たまに近くの村へ行きその日雇いの仕事をして、生き繋いできた。
焼け出された村には戻ってはみたものの両親の生きている痕跡は見つからず。
戻る里は無くなってしまっていた…
自分のみすぼらしい格好を嘆いてしまう。
(たけ丸が来るならもう少しまともな格好をしておけば良かった…寝床だってもう少し綺麗に…)
「たけ丸…」
そっと眠るたけ丸のこめかみに口を寄せる。
「…ん」
出来ることなら、このまま一緒に暮らしていきたい…二人で一緒に…
でもそれは、たけ丸にとって幸せとはかけ離れた生活になる。
俺は一人で生きていくので精一杯だ…
泥にまみれ、地べたを這いずり回って…そんな生き方をたけ丸にはさせられない。
仕えるべき主君のいるたけ丸は、もう生きる道は決まっているのだから…
「ん、…一之介?」
不意に眼を覚ますたけ丸。
「あぁ、おはよう…」
「おはよう」
「臭いだろ?離れたらいいから」
寄り添っているたけ丸に、そう気遣うが…
「ううん、一之介の匂いだから…」
さらに寄り添って…
「…たけ丸、」
「幸せ、一之介がいる」
瞳を重ね微笑む。
「…あぁ」
複雑な気持ちを隠したまま頷く。
そして気分を変えるよう。
「朝餉の支度をしようか…あ、城の飯の方がいいな、こんな泥臭いもの口に合わないだろう」
「ううん、食べる、僕も手伝うから…」
「そうか、なら、干してある魚、焼くから…」
「ありがとう」
そうして朝の飯を二人で食べる。
干し魚焼きに干し飯。川の水を沸かして味噌を溶いただけの質素な食事。
「いや、早く城に帰らないといけないんじゃないか?」
「う、ん。一度城に戻るよ、一之介に何か着物を持って来るから」
「いや、それは…」
「大丈夫」
遠慮する一之介の言葉を遮り優しく微笑む。
「すまないな」
眩しい笑顔にいなされてしまう。
「大丈夫だよ、あと甘い物も食べさせてあげるから」
「甘いもの?」
「うん、砂糖菓子」
「へぇすごいなぁ」
「ご飯も毎日白い柔らかいご飯が食べれるんだよ、今度握り飯にしてもらうから楽しみにしてて…」
「はは、ありがとう」
「じゃ、また昼時には戻ってくるから」
「あぁ、気をつけて」
「はい!」
馬に乗り、駆けていくその後ろ姿を、見えなくなるまで名残惜しそうに見つめる一之介だった。
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