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2. 容疑者 一条風吹2

探偵と連れだって夕飯の買い物へと出掛けている最中、珍しく高校時代の友達、市倉武史(いちくら たけし)から電話が入った。 用件は、これから職場の仲間と渋谷に飲みに行くから一緒にどうかと言う誘いだった。 タケとは久し振りだったから会いたくて、探偵に提案してみた。 「友達から飲みに誘われたんだけど、雪光も一緒に行く?安い居酒屋だから、口に合わないかもしれないけど」 断られるだろうなと思っていた。それどころか、行くのを止められるかもと。 けれど探偵は、仕方ない、今日は安いディナーで勘弁してやろうと即答した。 携帯を耳に戻し自分も1人連れて行っていいかと訊くとすかさず、オンナ?と返ってくる。 「男。弟分」 答えると、なんだよそれ、と笑われた。 『まだグレてんの?舎弟とかって』 「そもそもグレてねーよ」 舎弟なんて、冗談で言ったとしても酷い目に合されるし、探偵にそんなこと絶対に言えない。 「大体、もう幾つだと思ってんの」 『フブキのことだから、今ハタチぐらい?まだ10代とか?』 「ばっか!おんなじ学年!28だってーの!」 こっちが怒っていると言うのに笑いながら待ち合わせ場所を告げると、タケは一方的に電話を切った。 昔と変わってない。いや、昔よりはマシかな。行けるかどうか、ちゃんと訊いてきた分。 買い物の前で手ぶらだったから、その足で渋谷へ向かった。 電車で行こうと思ったが、探偵が心底嫌そうな顔をしたから、たった一駅だしと明治通りを歩いた。 すっかり夏である。 すこし歩いただけで汗が滲み出してくる。 だと言うのに探偵は涼しい顔をして、長い脚でさっさと歩を進めるのだ。 こっちは10㎝以上も低いところで頑張ってるんだ。少しは気を使って欲しい。 「探偵」 「………」 「青山ー」 「なんだ?」 振り返ることも歩を弛めることもせず、探偵はぶっきらぼうに応える。 こっちは15㎝も低いとこで歩いてんだぞ!ちったあ気遣え!こっち見ろ!! 「雪光、速い!」 大きく声を上げた。通り過ぎていく女の子たちが振り返るくらい。 「……よく、できました」 大きな掌が頭に触れた。 「おい…」 何故僕は頭をヨシヨシ撫でられているんだ。 年下のこいつに一体なにを褒められているのか、さっぱりだ。 「髪、汗かいてて濡れてんだろ。ばっちぃから触んな」 「気持ちが悪いのか?シャワーを浴びるとしたら、この辺にホテルは…」 「いや…、どうしてそう飛躍すんだよ」 「では、直接集合場所へ向かうか」 「向かうよ。はじめっからそのつもりだよ」 差し出された手ではなく腰のベルトを掴むと、探偵は不満げに声を上げた。 だが、こんな街中で男同士で手を繋いで友達に会いに行けるほど、僕は心が強くない。 お前は本当に凄い男だよ、青山……。羨ましくはないけど、尊敬はする。

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