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3.容疑者 一条風吹3
4月の事件からこっち、探偵は時々僕に対して過保護になる。
1人で出歩かないようとか、今から少し出てくるが鍵を掛けて決して誰も入れないよう、とか。
そして帰ってくると、執拗に何か変わったことは無かったかと尋ねるのだ。
まるでやむを得なく幼稚園児に留守番をさせてしまったお母さんである。
道に人が増えてきた。
その中でも探偵は頭一つ出ていて、何処にいても目立つ。
まあ人目を引く理由は背が高いからだけじゃなくて、見た目が整っているからだったり、その存在の放つ威圧感だったりが原因だったりもするのだろうけれど。
駅が見えてくる。
今日も渋谷は人で溢れかえっていた。
探偵の手が僕の手の甲に触れ、包み込んだ。
「僕人混み苦手じゃないし、平気だよ」
「私が人ごみに慣れていないのだよ。それにもしはぐれたら、私は待ち合わせの相手の顔も名前も知らない。困るだろう」
「あ、待ち合わせの相手な。名前は市倉武史っていって、えっと…身長が175ぐらいの…」
「会ってから聞いてやるから、おとなしくついて来給え」
会ってから相手の特徴を教えてやるってのもどうなんだ。
グイッと手を引かれて、小走りの速さで探偵の背中を追う。
───いつものことである。
もう、自分勝手なんだから、と一々怒っていたのも今では懐かしい話だ。
手にも汗をかいているのに、気にならないのかな。軽く潔癖症っぽいのに。
なんて。むしろ探偵を気遣ってしまう。
今日も朝から詩子ちゃんに、「それはもう達観レベルですわ」と眉根を寄せられたばかりだ。
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