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1.令嬢連続殺人事件1
※作中、実在する地名が出てきますが、すべて作品の中の世界、架空のものです。ご了承くださいませ。
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美しい女性だと思った。
事務所の扉を開いた彼女に、暫く見惚れていた。
だから扉を押し開けたのが彼女の背後の男だったと気づいたとき、既に男はそこから去った後だった。
肌は白く透き通るようだ。
長い黒髪はサイドの部分を纏め、後ろでバレッタ止めしている。
紺に白襟、膝丈のワンピース。
健康的な雰囲気ではないが清潔感の漂う彼女に、僕は一目で好感を持った。
変な意味ではない。むしろ崇敬にも似た憧れが心中に芽生えたのだ。
彼女は深々と頭を下げると、自らを「更科 春子 」だと名乗った。
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『令嬢連続殺人事件捜査本部』
そう看板を掲げた部屋を後にし、名波 葵 は駐車場へと向かっていた。
面白い事件ではない。いや、事件に面白いなどと言う感情を持ち込んではいけないのだろうが。
それにしても、これは面白くない事件だ。
事の発端は、愛宕山から見つかった遺体だった。
まだ命があるうちに高所から落とされたようで、体中に打ち身の痕があった。
死因は全身打撲だった。
山と言ってもそこは東京都港区に位置する丘陵で、標高は25.7mと決して高いものではない。
そこはオフィス街──虎の門、芝公園、新橋──に囲まれた一角である。
被害者の身元はすぐに割れた。
港区白金の八坂 家・次女の絵礼奈 と言う二十歳の大学生だった。
この八坂家の当主・晋太郎と言うのが巷でホテル王と呼ばれる明治から次ぐ財閥の長で、70を超え益々身体共に口も達者なようで、捜査に口を挟む、警察を使用人扱い、と娘の持ち物ひとつ調べるにも大変手古摺 らされた。
2人目の被害者は、横浜・金沢区の大丸山で見つかった。
こちらは町中ではないが、ハイキングコースのある長閑 な山だ。人の少ない場所ではない。
これは神奈川県警の管轄であったから、初動捜査の様子など知る由もない。
名波の知ることは、報告に上がってきた事柄だけだ。
被害者は、長司 希美 、23歳。医学部の学生であり、こちらも代々続く名家の娘であった。
父親は横浜随一の高級住宅街、山手を居住とする長司総合病院の院長、神の手を持つ心臓外科医、長司 勇田 である。
今やその神の手も、経営面にのみ発揮される手腕として有名だが。
そしてここまでは、それぞれは分断した、別々の事件だったのだ。
そもそも管轄が違う。きっかけがなければ重なりようもないのだ。
3人目の被害者が出た。
事件はまた、港区に戻ってきた。
いや、この時はまだ殆どの者が、戻ってきたなどとは思っていなかった。2つ目の事件だと思っていたのだ。
第1の事件と同じ、愛宕山に転がっていた遺体は、南麻布在住の裁判官、久木 秀五郎 の一人娘、亜沙子 のものだった。
秀五郎はマスコミに、1通の封書を流した。
──娘、亜沙子の命を頂く 執行者R──
殺人の予告状である。
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