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第1話
タタン・・タタンーーー
生憎の雨、外せない講義のせいで、バイク通学の俺が珍しく電車に乗っている。
通勤通学ラッシュで混んだ車内の空気は俺の心と同じでじっとりと重たかった。
こんな、誰もが憂鬱になる状況の車内で、一際目立つ男が居る。
いかにもイマドキな服装をしてスマホを弄りながらドアにもたれて立つ
瀬戸奏汰(せと かなた)だ。
抜けるように白い肌と整った顔立ちのせいで、ただでさえ目立つのに、髪色がかなり明るいアッシュグレーで身長もソコソコあるからどこに居ても目についてしまう。
ちなみに、髪型は【マッシュ寄りのダンディカットをベースにトップにゆるいパーマを当てている】らしい。
らしいっていうのは、ダンディーカットやらなんやらは、女子から聞いた受け売りだからだ。
俺の想像している【ダンディー】とはかけ離れたイメージだったから、もしかしたら聞き間違いかもしれないとググったら瀬戸の髪型がヒットして、世の中の【ダンディー】は一体どうなっちまったんだって衝撃を受けたっけな・・・
そんなくだらない事を思い出してしまうのには理由がある。
今俺は瀬戸に所謂【壁ドン】状態でドアに両腕を付いて立っていて、嫌でもそのハデハデしい髪が視界に入ってしまうからだ。
ドアと俺の腕の間にすっぽりと収まる瀬戸は、この混雑した車内に俺を盾として優雅にスマホを弄っている。
どうしてこんな状況になってしまったのか、理由は明白で・・
滅多に乗らない電車に乗って、流れに押されて端まできたらたまたまコイツが立ってた、ただソレだけの事だった。
コイツと俺は、大学が同じというだけで、学部もサークルも違って、共通科目以外に得に接点があるワケじゃない。
けれどコイツの事を多少なりとも知っているのは、キャンパスに瀬戸が現れると女子がざわつくし、周りが勝手に俺とコイツを比べてくるから、嫌でもお互いに存在を意識するようになってしまったからだ。
瀬戸を押しつぶさないようにするのが精一杯で、スマホを取り出す余裕さえ無い俺は、こんな風に視界に入る瀬戸の頭を見てぼんやりとするしかなくて。
気がつけば瀬戸の事ばかり考えていたのが癪で、気分を変えようと目の前にあるドアの窓から外の景色へと視線を移したが、電車の窓を打つ雨のせいで、肝心の景色はフィルターがかかったように霞んでいた。
何も見えねーじゃん・・
はー・・時間がスゲー長く感じる・・・。
だから電車は嫌いなんだよな。
そんな事を思っていると・・
「きゃ!!アソコ、瀬戸くんだ!電車通学だったのかな!?初めてみた!
はぁー本当カッコイイよね・・。」
「中身がああじゃなきゃ最高なのに〜!」
「ね、近寄りがたいよね〜」
「ん?ちょと、見て!前に立ってるの深山君じゃん!!!」
「どこどこ・・・見えた!!二人セットで見られるとかレア過ぎ!
今日はいい事あるかも・・!」
同じ大学の生徒であろう女子達の黄色い悲鳴が聞こえたかと思うと、興奮からかわざとなのか、少し離れた所からでも聞こえる会話に瀬戸の名前が出てきて、なんとなく耳を傾けていると、「朝から俺と瀬戸が見れていい事あるかも」なんて言うのが聞こえて来て・・・
朝見れて嬉しい物かぁ・・茶柱とか!!??
ふは、俺達は縁起物かよ!
そのまま湯呑みに浮かぶ茶柱の先に自分と瀬戸の顔がくっついているのを想像して、自分の思考回路が下らなすぎて笑っていると、突然瀬戸が突っかかってきた。
「・・・深山、お前、今俺の事バカにしただろ。」
「はぁ?何でそうなるんだよ・・・」
「今、笑ったじゃん。女子の会話聞いて、俺の事笑ったんだろ。」
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