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第2話
どうやら俺の笑いが自分に向けられたモノだと勘違いしたらしい瀬戸が、俺に向かって凄んでいて。
見下ろす先にある瀬戸は、白くて華奢な手でスマホを握ったまま不機嫌そうに俺を見上げていた。
瀬戸を見る度、目にかかる前髪がうざったいと思う。
それでも、その大きな二重の瞳は存在感があって、突然見当違いに噛みつかれて困惑する俺の顔が、淡い色をした瞳に映っているのが見えた。
はー・・今日は朝からついてねーな・・・。
雨だし、電車はギュウギュウだし、何故か瀬戸を庇って立つ事になるし、それなのに瀬戸に勘違いでキレられるし?
この態度は俺にだけじゃなく、誰に対してもこういう仕様だとは分かっているつもりだし、そもそも感じ悪いヤツなんて相手にしない位の対人スキルはあるつもりだったのに・・・
今朝からの些細な積み重ねでイライラした俺は、この澄ました顔を崩してやりたいという衝動に駆られた。
だからって、何をするってワケじゃねーけど・・
けど、今日は、何となく突っかかってしまったんだ。
「フッ・・・自意識過剰。」
「なんだとッ、深山のバーカ!」
「何だソレ・・・子どもかよ。」
「うるせーな!どうせ俺は中身残念だよ!」
「おー、お前それ自分で分かってたのか?エライエライ。」
シカトでもされるかと思ったけれど、意外と瀬戸が食い付いてきた。
コイツ、結構負けず嫌いなのか・・?
澄ました見た目からは想像もつかない子供じみた反論がちょっと可愛いじゃねーか。
と、思ったのもつかの間・・・
「子供扱いやめろよ!ムカつく顔しやがって。」
「はぁ?ムカつく顔って何だよ。
お前、誰のお陰でそんな悠々と電車に乗ってられると思ってんの?
そんな偉そうにしてていいのかよ?」
「ふん。別に頼んでないだろ。そういう感謝の押し売りみたいの、ウザい。」
「あっそ。」
頼んでないって・・・そりゃ確かにそうだけど・・!
こっちがぶつかんねーように必死にスペース作ってやってるっつーのに、可愛げの無い態度にカチンとくる。
前言撤回、やっぱコイツ可愛くねーわ!
男に可愛さなんて求めてるワケじゃねーけど、瀬戸の儚げな容姿とは真逆の横柄な態度は俺のイライラを増すには十分な要素だった。
もう踏ん張ってやる義理はねーな。
一呼吸置いて、俺は押されるに任せてフッと腕から力を抜いた。
途端に瀬戸と俺との距離が0になって、首筋に瀬戸の柔らかい髪が触れると同時にふわりと甘い香りがして・・・
何だよこいつ、女子か!ちょっとドキッとしちまったじゃねーか!
こんなムシムシした車内で、男なら汗臭くなってろよ!
なんて、理不尽なツッコミを入れつつも、気を取り直してドアと俺に挟まれて身動きがとれなくなった瀬戸の顔を見てやろうと首だけで下を向く。
ちょうど俺の鎖骨に瀬戸の鼻と口が埋まっていて目元しか見えないけれど、ゆるくパーマのあたった長い前髪の間から、眉を寄せて険しい表情の瀬戸が見えた。
クックック。苦しそうにしてやがる。
俺のありがたみがちょっとは分かったかよ。
ざまーみろ、なんて思っていた時、ちょうど電車がカーブに差し掛かった。
ガタンー・・ガタタン___
遠心力でドア側に体が押しやられたけれど、モチロン踏ん張ってなんてやらなくて。
「ふ、ぐっ・・・!!」
「ふっ、何そのうめき声。」
俺の体に潰された瀬戸が、ダサいうめき声を上げるもんだから、ついおかしくて、
耳元でクスリと笑って声を掛けた瞬間、瀬戸の体がビクンと揺れてーーー
「ん、アッ・・」
え・・・・・?
何だ今の声・・
通学途中の電車の中で聞くにはあまりに場違いな声が聞こえて、ビビって瀬戸を見ると、真っ赤になって俺を睨みつける潤んだ瞳と目が合ったーーー
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