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例外現る
特技、背景に溶け込み同化する事。
隠れ身の術が如く誰に気付かれることもなく、総務の仕事を全うする。
しかし時々そこへ踏み込んでくる例外がいた。
それが渋澤だった。
あの日の出来事は笹本にとって一生に二度とないであろう大事件だった。
いや一度だって許されることじゃない。
されたことはもちろん物凄く衝撃的だった。
しかし、これまで疑ったことのない自分の恋愛対象が実は同性かもしれないと、180度くるりと覆されたことで受けたショックは計り知れない。
それでも落ち込む間もなく時間は流れていく。
そして渋澤との有り得ない裸の付き合いの後、数日が経過した。
あの後逃げるようにして渋澤の家を飛び出た笹本だったが、あれから気まずくて渋澤とは目も合わせられないでいた。
元々目立たない体質なだけに、笹本が意識すれば更に影の薄い存在になるのだが、渋澤はそんなことは気にも止めず笹本をよく見ていた。
「名刺渡しに行くので少し離席します」
「ひっ……」
笹本が出来上がった名刺の束を商品開発室の社員に渡すため席を立った。
すると隣に座る美咲が変な声を上げ、「あなた居たの」と笹本を責めるような口調で言い放つ。
─ずっと居たけど……。
そうは思ったが、会話すら面倒で聞こえなかった振りをした。
隣にいる美咲ですらこうして笹本の存在を時々しか感じることがないのに。
そう考えると渋澤は本物(の変態)なんだと思う。
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