33 / 206
第33話
その後の事だ。
「お友達になった記念に早速今度の日曜出掛けませんか?」
そう握手の直後、渋澤に切り出され、思考が追い付かないでいた笹本は流されるまま余裕の表情を演出しながら言った。
「別にいいけど」と。
─有り得ない……有り得ない……!
笹本は自宅に帰って激しく後悔していた。
それもこれも童貞じゃないなら友達同士で抜き合うのは当たり前と訳のわからない擦り込みをされたせいだ。
それに動揺し我を忘れてしまい、色々とオーケーしてしまったのだから自業自得なのだけれど。
……あの時の自分を呪ってやりたい。
よく考えればおかしな提案をされたのだとわかる。
だが渋澤が本気でそうおもっているとしたら?
もし自分の常識が非常識だったのなら?
笹本の脳内は混乱を極めていた。
笹本は今日見ようと思っていたDVDをケースから取り出して、タイトルをじっと見詰めると、またケースにそれを戻した。
『ベスト フレンド』というタイトルの熱き友情の物語だった。
─別の日に見よう。
その後いつもと変わらない日常が過ぎていき、とうとう渋澤と約束した日がきてしまった。
友達としてのお付き合いを始めるに当たり渋澤と電話番号やSNSのIDを交換し、また渋澤の提案で午前11時に駅前の栄えている近場の高池駅で待ち合わせすることになっている。
自分の姿を鏡で見て、笹本は溜め息を吐いた。
ベージュのチノパンに白黒ボーダーのパーカー。
只でさえ身長も低く胴長短足なのに子供っぽいカジュアル服しか持っていない。
中でも今身に付けているものはまだましな方だ。
ともだちにシェアしよう!