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第34話
狭いクローゼットの中に収められている衣類の数々は子供っぽい自分を更に目立たなくする為に自分でも気付かないうちに集めてしまったカジュアルなものばかり。
笹本は渋澤のしゅっとしたスタイルを思い出した。
このままでは完全に渋澤の引き立て役である。
ただでさえ日頃から脇役且つ引き立て役みたいな存在なのに渋澤にまでそれを発揮してどうする。
─デートでもあるまいし、ばかばかしい。
今更友達付き合いを断るというのも変な話だし、約束をしてしまった以上それは果たすべきだ。
これはデートじゃない。
ただ友達と出掛けるだけ。
自分にそう言い聞かせ、笹本は子供っぽい顔をメガネとマスクで覆い隠した。
待ち合わせ場所である高池駅へは笹本の住むアパート近くのバス停から向かうことができた。
バス一本で繁華街に出られるのだから案外利便性のいい場所に住んでいるんだなと思う。
これでいつもの日常を繰り返すことができれば笹本は満足だった。
高池駅へ到着しバスを降りる。
最近建設されたファッションビルの並ぶ商業施設の一角で渋澤と会う約束をしている。
遠目からでも渋澤のシルエットはすぐにわかった。
「笹本さーん!」
渋澤は笹本を早々と見つけ、笹本に向けて手をぶんぶんと振っている。
笹本もまた右手を上げてそれに応えた。
渋澤は白いシャツに黒いジャケットを羽織、黒い細身のパンツを穿いている。
渋澤の私服姿を初めて見たが、とてもよく似合っている。
同じモブ属性でも渋澤の方が上位ランクだ。
モブを引き立てる更なるモブとして今日1日過ごさなくてはならないのかと思うと溜め息が出る。
「私服もいいっすね」
俯く笹本の頭にポンと何かが乗った。
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