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第35話
頭に手を置かれたと気付き、年下に子供扱いされたと思った。
思わずその手を手で払う。
「お、暴力的~」
「人聞きの悪いこと言うなよ。年上の頭を撫でるな」
「そういうの気にするんですね。覚えておきます」
渋澤は笹本の不機嫌を察しても相変わらずへらへらとしていた。
追い払っても寄ってくる犬みたいだ。
「で、どこ行くの?」
「そうですね。まずは腹拵えしましょうよ。昼時になると店が一気に混んじまうから先に行きません?」
「あぁそうだな。いいよ」
確かにその通りだ。
昼飯時に店に並ぶのも億劫だし、だったら少し早いけど何か腹に入れておきたい。
「何か食べたいものあります?」
「何でもいいけど、手っ取り早く食べれるものがいいな」
「お、奇遇ですね。俺もちょうどそんな気分」
渋澤がスマホを取り出し何かを調べ始めた。
周辺の飲食店を調べているのだろう。
渋澤は後輩だし出掛けようと言い出した張本人なのだから、ここはこいつに任せようと渋澤の様子をじっと見詰めた。
ふと学生の頃を思い出した。
用もないのに繁華街を歩き、カラオケしたりボーリングしたり、今の自分とは正反対の生き方をしていたっけ。
わいわい騒ぐのは苦手だったがあの頃は学生生活を謳歌したいと自分自身熱望していた。
だから騒がしい所にだって多少無理をしてでも行ったものだ。
ただ、地味で目立たないというところはその頃から変わりなく、今もなお健在だ。
だからこそ余計に考える。
こうして誰かと一緒に出掛けるのは何年振りだろう。
頑張って続けた当時の友達付き合いは、無理が祟ってとっくに切れてしまっている。
1人でいる方が圧倒的に楽で、誰かと行動を共にするその感覚をすっかり忘れてしまっていた。
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