144 / 206
第144話
「それより始めましょうよ」
渋澤が笹本の背中をトンとベッドの方へと押した。
壁際に設置されたベッドの上に渋澤の黒いスウェットが放り投げたようにおいてあり、薄手のタオルケットが乱れたベッドシーツの上で丸まっている。
あのベッドで渋澤の腕に抱かれ、泥酔したあの日、一晩を共に過ごしたのだ。
ふざけて体を弄られ、冗談のように告白された事を思い出し、笹本の顔が再び熱を帯びる。
渋澤はリモコンを操作しエアコンのスイッチを入れる。途端に冷たい空気が部屋に流れた。
「脱いで、笹本さん」
「え……」
「言い出しっぺでしょ。ほら早く。俺も小泉も待ってんですから。お互い明日も仕事だし」
「そんな急かさなくても!俺は笹本さんのペースで、い、いいと思います」
小泉の浮かれた声で浮彫となる渋澤の怒り。やはり渋澤の声が異様に冷たい。
自分がいけなかったのだろうか。
でもこの状況を許したのは渋澤だ。
……だけど、抜き合いがしたいだなんて、はしたない事を言いだしたのは誰でもない自分。
こうすることで何かを変えたかった。……一体何を?
笹本は自分が何をどうしたいのかわからず、胸の中をもやもやさせたまま、ワイシャツのボタンに手をかける。
ぼうっと考え事をしながら手を動かし続けた結果、気付けば笹本1人がパンツ一丁となっていた。
「可愛いです……笹本さん。肌がきれい。白くて柔らかそうです」
「つまんねー色気のない脱ぎ方。当たり前だけど眼鏡とマスクも外してくださいよ」
興奮気味の小泉にやはり不機嫌な渋澤。
どうしたら機嫌が戻るのか、笹本は言われた通りに眼鏡とマスクも外して脱いだ服の上に置いた。
すると渋澤は床に胡坐をかいて座り、自分の股間を指さしている。
「四つん這いでここ来てください」
なんでそんな恥ずかしい恰好でそんなことを?と頭の片隅で思うのに、渋澤の不機嫌さが気になって大人しく言うことをきいた。
ともだちにシェアしよう!