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第4話

* 「あ、ァん、…はっ、」  兄は家出をしてから少し従順になった。 「ここ、いい…?」  兄はこくこく頷いてボクの背に腕を回してねだる。兄が一番好きなトコロを突いた。 「…すごい…あ、感じ…る…」  兄は喉笛を晒してボクの背を引っ掻き、胸の横まで傷を付ける。ボクは兄の直腸を執拗に突いた。 side Hitohira 「っあ、イく…っ、ああっああはぁっ」  兄の爪が強くボクの皮膚に刺さった。 「っ、輪太郎兄さんっ…イくよ?」  誘う内側の動き。兄の腰を掴んで激しく打ち付ける。  最高だった。動きを緩やかにして、ボクは間抜けだ声を上げてイった。蠕動(ぜんどう)して奥まで流し込む。そもそもは雌を孕ませるためにする動きを男で兄にもする。最高だった。膣よりも感じるらしい、本来は性器じゃないそこ。遠慮がちに蠢いてボクの遺伝子を吐き出す。兄の遺伝子にも近いはずだ。こうして違う遺伝子を巻き込んで兄のナカに帰ってくる。ボクはボクが女にそうされるように兄の身体の上に倒れ込んでベタベタになった背をベタベタになった手で触りまくった。肩で呼吸する姿が愛らしく、ボクは身体中にキスを落とす。  ボクは何も聞かないでいた。帰ってきた兄にも、双葉にも。カッとなって何度もメッセを送ってしまったけれど、兄が帰ってくる頃には何か、燃え尽きていた。兄は一言だけ、「すまない」と言った。ボクはそれだけで全て済んだ。兄はいつも通り。でも兄がいなかった日、母さんが少しリラックスした様子だったのが気に入らなかった。本当の親子にはなれないんだ。父さんと母さんだって血は繋がってないのに家族になれる。でも母さんと兄さんは無理なんだ。母さんは兄から母親を奪った人で、兄は母さんにとっては"本当の"家族の団欒を乱す存在。だから仕方ない。時間が解決してくれるかも知れないし、してくれないかも知れない。 「双葉のおやつ、作らなきゃ…」  兄はふらふらと立ち上がって服を着ると台所に向かう。相変わらず、双葉は強敵だった。  ある日だった。 「もう王島くんとは別れたから、カレのお弁当要らない」  双葉が兄とリビングで話していた。まさか兄は双葉のカレシにまで弁当を作っていたのか。兄は返事をしなかった。 「カレシの分も作ってるの?」 「前に世話になったから…」  双葉が2階に上がってから、兄はぎこちなく答えた。 「兄さん?」  兄はぽろぽろ涙を零していた。 「何でもない」  双葉を(おもんばか)っているのか。兄は双葉にやはり甘い。2人には多分恋愛感情なんてお互いにない。奇妙な付き合いだった。 「良かったんじゃない?ちょっと遊び人っぽすぎて、双葉には合わないよ」  兄は乱暴に目元を拭って笑った。でも笑ってない。 「ああ…そうだな」  そんな簡単に肯定されるとは思わなかった。肯定的に思っても、兄はボクが人を悪く言うのをそれが事実でも嫌がる傾向があった。 「あのヤンキーカレシと何かあった?」  兄は顔を顰めて俯いてしまった。 「何も、ない。何もなかった」  中身の伴わない笑顔で兄は言った。何かあったらしい。あの、双葉のカレシと。兄と何があった?どうして兄は泣く?どうして兄を泊めた?どういう関係なのか。ボクと兄の関係を知っているの?カノジョが兄同士のセックスを日常的に見ていることは知ってる?問いたいがたくさんある。どれも悪趣味で、結局その疑問に意味なんてなくて、ボクの性生活のスパイスになるだけ。 * side Eito  最低過ぎる。カノジョにビンタ喰らってなんか訳わからん喪失感にボケーっとした挙句に階段から落ちるとか。頬にでかでかと貼られた湿布を撫でながら大きく溜息を吐く。もう輪太郎オニイサンとは何の関係もなくなってしまった。一緒に寝た思い出。年甲斐もなく手を繋いで狭い布団に2人で寝た。頭が悪過ぎる。隣にベッドあるのにバカ過ぎでしょ。何が悲しくて成人したカノジョの兄貴と同衾するのか。捻った手首が少し痛い。原因がマヌケすぎて親には言えなかった。それよりも、輪太郎オニイサンの弁当食えなくなったことのほうがダメージは大きい。梅干しとトマトとグリーンピースが入った弁当。げぇって思ったけど美味しかった。素材そのままじゃなかったから。  こうなるならやっぱりあの夜一発ヤッておけばよかった?なんてゲスな後悔も無いといえば嘘だ。 『なんかあれから兄さん変なの。何かした?』 『シてない!天地神明(てんちしんめー)に誓ってシてない』  双葉の疑いの目。意外と表情があって新しい発見。でも直後に別れを切り出されるなんて思わなかった。 『あの日のことは忘れて。もう兄さんにこれ以上負担かけたくないから』 『あ、弁当のこと?悪ぃし、美味しいけど、こんな手の込んだ物大変だもんな、もう大丈夫だって、伝えてくれよ』 『…わたしと王島くんがこのまま付き合ってたら、兄さんは多分つらい』 『なんで』 『時々つらそうなカオするから』  いやそれは次男のせいでは?とは言えなかった。それに本当かも知れないし。だってオレは強姦魔(レイパー)だ。 『じゃあね』 『いやだ』 『…このまま付き合っても、わたしは王島くんのこと好きにならない』 『分かってるよ。オレが輪太郎オニイサンのこと好…』 「あ~」  思い出すな思い出すなと思いながら思い出す。オレは呻いた。双葉は言わせてはくれなかった。階段から落ちた痛みの下に、双葉の掌の感覚がある。  輪太郎オニイサンのこと、好きになってしまった。最低過ぎる。レイプして好きになるとか問題過ぎるだろ。しかもカノジョ…元カノの兄て。そんなバカな話があるか。もし恋愛漫画として編集社に持って行ったら間違いなく没だろ。フィクションならありがちだけど、現実だったら泥沼過ぎる。…その泥沼にオレはいた。でもこの想いは握り潰そう。ちょっとした気の迷い。でも、楽しかった。  双葉とは別れたが、双葉のお兄さんとはすぐに再会した。高校違くなかったか?周りを歩く女子に限らず男子までもが私立のお洒落な制服に身を包んだ、笑わなければ胡散臭さはない美少年をじろじろ見ていた。この辺の傾向として私立高校に通っているのはよほど意識が高いか、公立受験落ちたかの極端な2択になるけど都会だとその傾向が逆転するらしい。どうせ双葉に用だろう。でも双葉とは別れてしまった。オレはうんとは言っていないけど多分双葉のことだから別れたことになってるし、オレも潔く別れを認めるべきだ。トンデモ腹黒イケメンを素通りするとやつはオレの前に立ちはだかった。 「やぁ」 「あるぇ、双葉のお兄さん」  わざとらしく今気付きましたとばかりに目を大袈裟に見開く。睫毛の濃いタレ目が細まる。大きな黒目が歪んで見える。 「素通りなんて冷たいじゃないか」 「いや…聞いてません?オレ、双葉にフられちゃったんですよ~」  いやらしい?やらしい?意地の悪そうだった。双葉と輪太郎オニイサンとこの人、本当に穏やかに暮らせてんの? 「聞いた、聞いた。でもボクは君のこと結構気に入ってるんだよ?」 「またまた、ご冗談を。結構ジャマだって、思ってますよね?」  はは…とオレは笑うとイケ次男も笑った。でもそれが好意的なものでないことは露骨なほどだ。 「この前は兄が世話になったね」 「いや、世話してもらったのはオレのほうですって~」  次男坊は怪しさしかない笑みを崩さない。 「楽しかった?」 「楽しかった」 「そう。君とはどう話す?何を喋るの?馬合わなそうなのに」 「オレのことはオニイサンも君って呼ぶ。話すことなんて些細なこと。これが美味いとかあれが美味いとか」 「…双葉と別れたなら、もうオニイサンじゃないよね?」 「じゃあ輪太郎サン。双葉のお兄さんとも区別出来て、ちょうどいいや」  イケメン次男の笑顔が薄らいだ。露骨だなぁ。 「ってゆーかお兄さん、高校は」 「君に会いに来たんだよ」 「うっわ、それ言われたくて泣いた子がいっぱいいるんだろうな~」  確か…一枚(ひとひら)くんだったっけ。次男坊は。ほとんど笑みが消えてちょっと陰険にすら見える。 「…輪太郎兄さんが帰って来た時のあんな(ほが)らかそうな顔、見たことなかった」 「へ?」 「どうすれば輪太郎兄さんに…あんな顔させられるんだ?」  そんなのレイプしないことに決まってる。いや、オレはしたな。 「身に覚えがないですね~」  肩を竦める。この次男坊、相当頭悪いでしょ。兄弟でもってセックスもしたくて"ほがらか"な顔もほしいとか。強欲だなぁ。もしかして全てが手に入っちゃってるタイプ? 「ボクがどれだけ輪太郎兄さんを大事に思っているか君には分からないだろうね!」 「分からないですよ、他人ですから。ましてやお兄さんのこと何も知らないし。話さなきゃ分からない、輪太郎サンはそう言ってましたけど」 「…ッ、あんたが輪太郎兄さんを語るなっ!」  次男坊の手がオレを突き飛ばす。マジかぁって思った。  あれ?一枚(ひとひら)じゃない?  女子の声がする。めっちゃ有名人じゃん。じゃあオレってめっちゃマヌケに見えるんじゃ?モテ男に突っ掛かった所詮2番目3番目の男的な。 「なぁ、マジで輪太郎サンのこと大事に出来ないならオレがもらうけど?」  なんでこんなこと言ったんだろな。次男坊の拳が飛んで来た。兄妹に殴られたんですが? 「あんたみたいな他人に!うちのことなんて分からない!あんたみたいな!他人が!」  返す言葉もなかったし、実際喋る余裕はなかった。 「一枚(ひとひら)くん!」  騒ぎを聞きつけたのか遠くで双葉の声がした。幻聴かも知れない。元カノにカッコ悪いところ見せまくりだ。しかもここは校門前。車が来る。マズいって。兄貴が事故って死んだから、オレ人一倍気を付けてんのに。大体こういうのって車悪くないまま事故― 『兄ちゃんどこ行くん』 『友達ン()!』 『今日すき焼きだから早く帰ってきて!早く!一緒に買い物行くんだから、ね、母ちゃん!』 『分かった、17時(ごじ)に帰ってくる!』 『お肉いっぱい買ってもらうからお菓子いっぱい食べてきちゃダメだよ!』 『オッケー』 『帯貴(たいき)、そこの信号危ないから気を付けるんだよ』 『分かってるって、毎日言い過ぎ!』 『毎日言わなきゃ聞かないでしょう』  車輪がからから回っていて。でもそれは大人の自転車。っていうか兄貴見たのはもう白い布かぶってた後。じゃあこの光景はなんだ。空が遠くて真っ青で、オレは魚だー、虹鱒だーって思った。そうだ、兄貴は釣りが好きだった。でも兄貴が轢かれた日は曇りだった。だから尚更"母ちゃん"は心配してた。知らん人が謝りに来て"母ちゃん"と"父ちゃん"が耳が千切れるくらい怒鳴ってた。でもオレはその知らん人のことを可哀想だと思った。あの人が兄貴を轢いた人だと気付いたのは大きくなってから。なんで死んじゃったのか知らないけど、中学校と高校でチャリ通学になって交通安全教室みたいなのので観せられるビデオで、何度もオレの中で兄貴が死ぬ。でもやっぱり白い布かぶってたのしか見てない。葬式の風景もよく覚えてない。でもそういうもんだ。いちいちじっくり覚えてない。何年経ったと思ってる。ただひとつだけ思うのは、あの時もし早く帰ってきてほしいだなんて言わなかったら。いや、たった一言。聞き逃されるような。でもそのたった一言を嫌でも覚えていて、あれのせいかもこれのせいかもって考えて、的はずれなのは分かってるのに。  ノックの音で目が覚める。 「君」 「永斗って言ってんじゃん」  ベッドに座って挑発的に笑うと緊張した爽やかな顔が少し緩む。 「永斗…すまない、うちのが…」 「いいって。生きてるし」  輪太郎サンが派手にレジ袋落としてオレに近寄った。床ヘコんだらどうすんだよ。もうヘコんでるけど。 「そういう問題じゃ…」  輪太郎サンはおそるおそる手を伸ばしてきた。なんだ?って思った。寝間着越しのオレに触れた途端、またゆっくり抱き締めてくる。そこは勢いよくやるもんでしょ?あ、オレの身体心配したのか。 「母親いた?」 「ああ」 「怒られた?」 「いや…本当のことを言ったら、会わせてもらえないかと思って…」 「ふは、輪太郎サンも嘘吐くことあるんだ」 「…どうしても君に会いたかった」  オレは息のしかたを一瞬忘れて噎せ、鼻から盛大に息を吐いてしまった。頭を強く打ちすぎて幻聴か。重症かもよ? 「でもオレと輪太郎サンはもう何の関係もないじゃん?あ、双葉と別れた話聞いてる?」 「聞いてる…一枚(ひとひら)が君のところに行ったのも、そのことだと思って…」  輪太郎サンはオレの肩に顎を乗せた。待って?オレって輪太郎サンとこんな甘いムード出すような関係だった? 「じゃあオレと輪太郎サンはもう何の結び付きもない。なぁんも。赤の他人。残念だけど」  輪太郎サンの腕が強くなる。オレの放つ薄荷の匂いを嗅がれてるしまう。 「俺が、嫌だって言ったら?」 「ありがたいね。オレ、輪太郎サンのこと好きだもん」  輪太郎サンは抱擁を緩めると神妙な面持(ツラ)でオレを見る。そしてオレの頬を抓った。 「俺は真剣に言ってる」 「ひょっと、おひぇがしんへんひゃねぇってかっへにきへんにゃよ」  輪太郎サンはオレを見つめる。 「ほい」  オレは輪太郎サンの悪戯っ子な腕を(はた)き落とす。 「君のことをずっと考えていた…君が一枚(ひとひら)に殴られて…自転車に轢かれたと知って…俺は居ても立っても居られなくなったんだ…!」  オレは頭を抱えた、ではなく口元を押さえた。ニヤつくだろ。輪太郎サンは小っ恥ずかしい告白をなおも続ける。 「君に一晩泊めてもらってから、日常のひとつがひとつがなんだかキラキラしてて…君に弁当作るの楽しみで…梅干しとトマトとグリーンピースを見るとつい浮ついて…」  弁当の中身やたらとそれ多かったのそういうこと…。輪太郎サンが顔を上げた。オレはにやにやした締まりのない顔を咄嗟に逸らして誤魔化す。 「君のことが好きだ。君といると楽なんだ。君といると自分の小さなこだわりがバカバカしく見えて…」  輪太郎サンはオレを見つめている。 「いやでもオレ、輪太郎サンに酷いことしたの忘れてないでしょ」 「…あれは…確かに怖かった。痛くて、苦しくて…双葉の前だったし本当に双葉が何かされるんじゃないかって怖くて…でも今は、俺は君を離せそうにない…」 「冷静になってよ。オレはまだ高校生で、男で、妹の元カレで、強姦魔で、どういう縁かたった1日あんたと一緒に過ごしただけなんだって!追い詰められてるよ、あんた。追い詰められてる!」 「…意地悪言うな」  輪太郎サンが、視界いっぱい。唇が一瞬湿って柔らかかった。オレの顔は多分真っ赤になってる。また抱き締め直された。ただ無言。輪太郎サンの匂いで胸がいっぱいだった。 「母さんと暮らすことになった」  輪太郎サンの中でオレはどれくらい歳下なのかは知らないけどまるで子どもあやすみたいにとんとん背を叩いてくる。もしオレが女だったら普通に犯罪の香りするよ。 「母さんって…」 「血の繋がった母親。2人で暮らそうと思う」 「…そうなんだ」  輪太郎サンは温かい。あのベッタベタな次男と双葉はどうなるのだろう。でもオレにはもう関係ないことだ。今関係があるのは輪太郎サンだけ。輪太郎サンは離別の決断したんだな。 「少し遠くなるけど、君さえ良ければまた会いに来たい」  不安げだ。オレだって輪太郎サンのこと好きって言ったのに。 「…もっとぐいぐい来たっていいんだって。遠慮し過ぎ」  輪太郎サンの唇を塞ぐ。舌を絡め合う。気持ち良い。キスってこんな、気持ち良かったっけ。  ポン  メッセが鳴る。キスしながら端末(スマホ)に手を伸ばすと輪太郎サンが阻むようにその腕を取る。可愛すぎでは?もうお互い我慢大会みたいにキスしてた。舌が絡んでお互いの口の中を行ったり来たり。頭がふわふわした。輪太郎サンのことすげぇ好きだなって思った。キスによる錯覚か。 「長い」 「…君とのキスが、気持ち良いから…」  この人素直過ぎないか?ちょっと心配だ。オレは唇の端から溢れた唾液を拭いながら端末(スマホ)を見る。母親から。仕事戻るらしい。 「急用か?」 「この身体でオレに急用はありませんて。母親が職場戻るってさ」  車の音がする。輪太郎サンはオレをまた抱き締めた。 「…?」  え?なんかこれ、オレが抱かれる流れになってない?いやさすがにそれはまずいのでは。 「輪太郎サン」 「出来るだけ俺が動くから…」  オレの頬を撫でる。優しく見つめられる。 「輪太郎サ…」 「君が欲しい…」  かっこいい。輪太郎サンに見惚れた。これはあのイケメンも陥落する。 「不甲斐ないだろう…?ずっと弟に抱かれた身体は、嫌か…?」  なんでそんなこと訊くんだろうって思った。頷かないでって顔をして。拒絶しないでって顔をして。もっと勿体ぶってもいいくらいだ。否定待ちの構ってちゃんよりもずっと卑屈で、自分がそう思っているからこそオレには否定してほしい、みたいな。 「嫌っつーか、悔しい」  輪太郎サンの目が少し細まって、眉間がきゅっと縮まった。泣きそう。 「輪太郎サンはいいの?ツラくない?こんなカタチじゃなくたって」 「俺は君に、されたい」 「オッケーどころかめっちゃうぇるかむ」  オレは輪太郎さんをベッドに引いた。綺麗だと思った。パーカーを胸まで捲り上げる。しっかりした身体がオレのベッドの上にある。緊張が伝わってしまったのか少し輪太郎さんの腕が浮いて、シーツに沈む。オレはそれを掴んで、オレの頬に当てた。階段から落ちた時の湿布の上から輪太郎さんの掌を感じる。冷たいけど少し湿っている。緊張しているのだろうか。 「胸、どう…?触ったことは?」  露わになった素肌を撫でる。薄いが引き締まった胸を摩りながら問う。輪太郎さんは首を振る。 「じゃあ少しずつ慣らそう…?」 「女の子にするみたいにするな…」  輪太郎さんが上体を起こしてオレを少し強気に見つめる。屈辱だったか。ちょっと反省した。オレはご利益がある石でも撫でるみたいに空いた手で輪太郎さんの前を布越しに撫で回す。 「君の…経験を想像して…ッ嫉妬してしまう…」 「ほんっとさぁ…」 「…すまない…呆れたか…?」 「いや、めっちゃ好きになった」  輪太郎さんは下唇を噛んでオレの輪郭をなぞる。 「俺が動くから君はじっとしていてくれ…傷に障ったいやだ」  輪太郎さんと体勢が入れ替わって、輪太郎さんがオレを跨いでいる。まさかあの時は、こんな風になるだなんて思ってもみなかった。願ってさえいなかった。同性を好きになることさえ、考えたことさえない。でも輪太郎さんは綺麗だった。見た目の清潔感だけじゃない。それから、あとは多分言葉とか理屈に出来るものじゃない。 「下手だったか…?」 「見惚れてた」 「…ばか」  輪太郎さんがオレのを擦っていた。オレは輪太郎さんがかわいくて心臓ばっくばく。でも輪太郎さんは不安げで、またオレの強心臓がダメになりそうだった。輪太郎さんに素直に伝えれば軽い頭突き。そのままキス。舌を挿し込むと輪太郎さんの手が緩くなって、オレは輪太郎さんの手の上に手を重ねて輪太郎さんの手を使って自分で扱く。 「ン、はぁあん…っふ、」  輪太郎さんの姿と誘い文句で普通にそれなりには勃ってたものだから、もう十分なわけで。 「…っ、も、そろそろ慣らす…って」 「…だい、じょ…ぶ」  そろそろ輪太郎さんの繊細なところを解さないと、暴発してしまう。輪太郎さんが早漏(そーろー)なのはかわいいし遅漏(ちろー)でもかわいいけど、オレはまずいよ。さすがに引かれる。でも輪太郎さんは照れて首振った。いや、慣らさなきゃいけないんだって。女の子だって慣らすもんなんだって。そんなこと、言えないけど。 「痛くしたくない」  輪太郎さんの急く身体を掴む。輪太郎さんは戸惑っていた。なんで? 「もう…慣らしてある…から…」 「え」  輪太郎さんは恥じらっていて、そしてオレはオレの(おつむ)の無さを呪う。そうだ、この人、弟に関係迫られてたんだった。 「分かった。じゃあ痛かったりつらかったりしたら言ってよ。…言って止まるか分かんないけど、なるたけ止める」  赤い顔をして輪太郎さんは頷いた。輪太郎さんはジーンズと下着を脱ぐ。唇を噛んでオレのを支えると、ゆっくりと腰を下ろす。マジで慣らさないんだ。でも柔らかかった。少し入り口付近が腫れている気がして暫くは控えてもらおうと思った。でもすぐに別居ってわけには行かないだろうな。輪太郎さんの身体が心配だ。 「はっ…あ…ああ…ぁあ、っくぅ」  沈んでいく輪太郎さんの身体。苦しそうだった。でもソコは柔らかく、でも締め付けながらオレのを呑んでいく。輪太郎さんがオレの女の子との経験に嫉妬してるなら、オレだって嫉妬してるよ、弟に。でも輪太郎さんの性格上断れないんでしょ。別居選んだだけでもすげぇと思う。 「奥…に当たっ……ぁあっあア…んぁあ」  輪太郎さんの中が締まって、オレは顔を歪めた。輪太郎さんはぽろぽろ泣きはじめて、オレは痛いのかと思って少し萎えた輪太郎さんの前をゆるゆる扱いた。ちょっと皮被ってるのがやっぱりかわいい。他の人のだったらかわいくない! 「痛い?」 「…嬉…しくて、好きだか、ら…すごく、うれっ、しくて…」  きゅうきゅう締め付けられて、マジでイかされそう。輪太郎さんの男泣き。でも内容めっちゃ乙女。好き。ってかなんでオレそんな好かれてんだかな。罠?まさかな。いや罠じゃねーよ。オレだって純粋に好かれるわ。  輪太郎さんがオレの腹に手をついて腰を上げていく。締まる部分がオレのを辿っていく。 「っ、は、あぁ…、永斗、好き…っ」  どちらからともなく片手を握り合う。指が絡み合う。生温かい。 「オレのどこが好き?」 「分かっ…っああ、はァ…ンく、んない、けどっ、一緒にいて、たのし…かっこ、よく…て、かわい…」  輪太郎さんは熱い息を吐く。喋りづらいだろうに律儀に輪太郎さんは必死に言葉を紡いでいく。…は?かわいいだと? 「甘やかっ、ああっ…して…くれ…るン、の…に、しっかり、したく、なぁ、ぁ、ぁあっはぁ」  輪太郎さんの身体を抱き締めて体勢を変えてしまった。痛めた足と右肘となんか突っ張った感じの背骨がジンとしたけど問題ない。騎乗位もいいけどオレが輪太郎さんを愛したい。 「はっァあ!永斗!永斗っ」 「輪太郎さん…もう止まんないかんねオレ」  輪太郎さんの潤んだ目がオレを見つめる。輪太郎さんの腰を掴んで、突く。輪太郎さんがオレの首の後ろに腕を回した。上体を起こしてキスされる。舌が絡み合う。ぴちゅ…って音がしていやらしかった。輪太郎さんとのキスは甘くてふわふわして気持ち良い。ずっとしてられる。 「は…あん、はぁっッ」 「輪太郎さん…輪太郎さん…」  輪太郎さんがぎゅっと下でオレを捕らえた。 「なぁあ、んか、へ…ん、」  輪太郎さんが強くオレを抱き締める。爪の感触が時折背に当たるけど、オレに爪を立てないように何度も指を立て直す。 「引っ掻いて大丈夫だよ、輪太郎さん、痕つけて…」 「こ、わい…こわい、へんだ…」  ベッドが軋む。何度も突くと輪太郎さんがオレにしがみつく。 「大丈夫だよ、輪太郎さん」 「ああ、あああ、…あん、ああっ、こわい…こわいっ、ああああ、ああっ、あんンンっ!」  密着した輪太郎さんががくがく震えた。電流通したみたいに。輪太郎さんの脚が強くオレの身体を締めて、オレのほうが怖くなってしまった。輪太郎さんがどうにかなってしまうんじゃないかと思って。でもオレは輪太郎さんを抱き締めた。 「はっああ…あ…」 「輪太郎さ…ッあ、く、」  輪太郎さんがぎゅうぎゅうオレのを締め付けて、オレのを奥へ奥へ引き込もうとして、その気持ち良さにオレも果てた。ゴム付けてないから浅いところで勝手にかくかく腰が動く。結合部から見えるオレの見慣れたヤツが呼吸してるみたいに脈を打って、輪太郎さんの中に精を注ぐ。 「永斗…」 「輪太郎さん大丈夫?」  輪太郎さんは息を切らしていた。下腹部を撫でている。痛い?突き過ぎた? 「永斗のが、…出てる…」  頭の中がスパークして輪太郎さんの汗ばんだ肩をオレは齧った。 「お風呂入るぞ」 「…永斗?」 「中に出したから…」 「もうちょっとだけ…」  輪太郎さんがオレを抱き締める。オレは強姦魔だけど、でも、今は、この人を守りたい。多分これからも。だから…

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