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真夏のプール編 おまけ2 今日も明日も明後日も

「京也」  なぁにが、たいしたものじゃない、だよ。  どこがよ。  本当にさ。  そのたいしたものじゃないって言った裸に心臓跳ねるし、クラクラするし、しがみついて翻弄されてる大人はどうしたらいいわけ?  ねぇ。  その、たいしたものじゃない裸に、ときめいてる、いい歳した大人はどうなっちゃうわけ? 「あ、っ」  頬が熱くて仕方ない。  ね、きっと今、赤いよね。顔。  恥ずかしいなぁ、もぉ。  大人なのにさ。  小さくても店持ってて、クリエイターとしてそれなりに自立もしてる。恋愛だって、セックスだって、「上手」だったのに。柚葉とは「下手」でさ。  今までの俺だったら、彼氏とプール、きっと行ってたよ。楽しいって思ったのに。 「挿れる」 「あ、ぅ……ンっ」  ヤキモチ。ふわふわしちゃって。いくつも歳下の彼氏に夢中になっちゃったりして。 「っ、京也」 「あっ、やっ、あぁ」  セックス、して欲しい、なんて思っちゃったりして。   「あっ、っ」 「きつ……」 「ん、ン」  馴染むまで待ってくれてる優しい歳下彼氏の腰に足絡めてさぁ。 「あ、ぃぃ、よ、動いて」  そんなことせがんじゃうなんて。 「あっ、あぁっ」  奥に来る時に覆い被さるように身体が重なって、柚葉の懐に閉じ込めてもらえるのが好き。柚葉のものになりたいから。 「あ、んっ、ンン」  ゆっくり引き抜かれる時、顔見てくるの、やめてよ。甘ったるい声溢して、切なそうにしてるとこ、見られるの苦手。 「あ、あぁっ……ン、ふ」  ぎゅってシーツを握ったら、その手はこっちって柚葉の大きな手が俺の腕を掴んで、首に持っていく。しがみつくならシーツでも枕でもなく俺にしろって言われて、その背中にしがみつくみたいに腕を回すと、抱き締めやすいように背中を丸めてくれる。 「ン、ん」  そのまま舌を絡めてキスをしながら、繋がった場所が深く深くなって。 「京也」 「あ、あっ、ン」 「好きだ」  歳下彼氏に甘く甘く溶かされちゃいそうになるんだ。  昔は朝、コーヒーだけだった。面倒だし、朝からそんなに食べると身体がまったりしちゃう気がして。夜と朝の切り替えスイッチ、みたいな感じでコーヒーだけ飲んでた。仕事してたらあっという間にお昼くらいにはなっちゃうし。太りたくないし。 「京也、朝飯」 「ありがと」  コーヒーの香りってこんなに心地良かったっけ。  朝、レースカーテン越しに入ってくる日差しって、気持ちよかったっけ。 「わ、オムレツ、とろとろ」  テーブルに着いて、サラダとオムレツ、それからこんがり焼けたロールパンが二個。ハムもある。  そんな絵に描いたような朝食にちょっと感動。 「とろとろになる方法、教わった」 「へぇ」  あぁ、もう。  恋って、こんなだったっけ? 「へ? 仰木……すか?」 「そ。最近」  仲良しさんが増えた? なんて、まぁ、ちょっと、世間話? 休憩中の他愛もない、職場トーク? なんていうか、まぁ、その。 「んー……どうだろ。フツーに無愛想ですけど」 「そうなの? なんか、ほら、じゃあ、剣斗くんの周りで料理詳しい子っていたりしない?」  フライパン一つでパスタが作れる方法を知ってたり。オムレツをふわふわにしちゃう方法を知ってたりする子。 「んー…………あ!」 「!」  どんな子? 可愛い? 男? 女? 柚葉のこと、その子はどう思ってそう? 「いた!」  ねぇ、柚葉とその子は仲良し? 「子って感じじゃないっすけど」  じゃあ、美人系ってこと? それって柚葉の好みのタイプじゃ……。 「よく料理のこと最近聞いてて」  そう、その子。美人で。 「この前、オムレツの作り方聞いてた」 「!」 「学食のオムレツ、美味かったから」 「……へ?」 「学食の飯作ってくれる人」 「…………」 「熱心に訊いてたっすよ」  え、あの。 「……っぷ」  その笑い声に飛び上がった。低くて、優しい笑い声。 「ゆ、柚葉っ?」 「ただいま。駅前で期間限定のプリン売ってたから買ってきた」 「うわ、美味そー」 「剣斗んとこの分」 「わ? マジ? 和臣の分?」 「あぁ、この前のプールのお土産、美味かったし」 「サンキュー」  ねぇ、ちょっと、どこから聞いてた? ねぇねぇ、今の会話、全部じゃないよね? って、全部でもなんでも、もうその笑い方わかってるんでしょ? 今、の。俺がちょっとザワザワしちゃってたって。ねぇ、ちょっと、ものすごく恥ずかしいんだけど。 「んじゃ、俺、コーヒー淹れてくる」 「ちょ、剣斗くん!」  フットワークも軽く、剣斗くんが奥に引っ込んじゃった。ね、今はちょっと二人っきりにしないでよ。 「…………オムレツの作り方、京也も聞きたかった?」 「! 違っ、これはっ」  ニコニコしないでよ。  はっず。  はっずかしい。  もう、ホント。 「あのねぇ、俺はっ別にっ」  指先まで熱くなっちゃうくらい、恥ずかしくて、照れ臭くて、もう大失敗だよって、わーって、なる。大人の、クリエイターの、美人ネコの、いろんなお面全部、ぐしゃぐしゃにして、皺くちゃにして、パーってばら撒きたい。 「京也」 「な、何っ」  たいしたことじゃないよ。  言ったら、笑っちゃうんじゃない?  なんだそれって、呆れちゃうかも。そのくらい幼くて、おろかで、くだらないこと。 「すげぇ好き」  そのくらい幼くて、おろかで、くだらない、けれど、世界で一番大事で、一生抱き締めて掴んでいたい、この恋一つに昨日も今日も、明日も明後日も、ただ夢中なの。

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