151 / 151
真夏のプール編 おまけ2 今日も明日も明後日も
「京也」
なぁにが、たいしたものじゃない、だよ。
どこがよ。
本当にさ。
そのたいしたものじゃないって言った裸に心臓跳ねるし、クラクラするし、しがみついて翻弄されてる大人はどうしたらいいわけ?
ねぇ。
その、たいしたものじゃない裸に、ときめいてる、いい歳した大人はどうなっちゃうわけ?
「あ、っ」
頬が熱くて仕方ない。
ね、きっと今、赤いよね。顔。
恥ずかしいなぁ、もぉ。
大人なのにさ。
小さくても店持ってて、クリエイターとしてそれなりに自立もしてる。恋愛だって、セックスだって、「上手」だったのに。柚葉とは「下手」でさ。
今までの俺だったら、彼氏とプール、きっと行ってたよ。楽しいって思ったのに。
「挿れる」
「あ、ぅ……ンっ」
ヤキモチ。ふわふわしちゃって。いくつも歳下の彼氏に夢中になっちゃったりして。
「っ、京也」
「あっ、やっ、あぁ」
セックス、して欲しい、なんて思っちゃったりして。
「あっ、っ」
「きつ……」
「ん、ン」
馴染むまで待ってくれてる優しい歳下彼氏の腰に足絡めてさぁ。
「あ、ぃぃ、よ、動いて」
そんなことせがんじゃうなんて。
「あっ、あぁっ」
奥に来る時に覆い被さるように身体が重なって、柚葉の懐に閉じ込めてもらえるのが好き。柚葉のものになりたいから。
「あ、んっ、ンン」
ゆっくり引き抜かれる時、顔見てくるの、やめてよ。甘ったるい声溢して、切なそうにしてるとこ、見られるの苦手。
「あ、あぁっ……ン、ふ」
ぎゅってシーツを握ったら、その手はこっちって柚葉の大きな手が俺の腕を掴んで、首に持っていく。しがみつくならシーツでも枕でもなく俺にしろって言われて、その背中にしがみつくみたいに腕を回すと、抱き締めやすいように背中を丸めてくれる。
「ン、ん」
そのまま舌を絡めてキスをしながら、繋がった場所が深く深くなって。
「京也」
「あ、あっ、ン」
「好きだ」
歳下彼氏に甘く甘く溶かされちゃいそうになるんだ。
昔は朝、コーヒーだけだった。面倒だし、朝からそんなに食べると身体がまったりしちゃう気がして。夜と朝の切り替えスイッチ、みたいな感じでコーヒーだけ飲んでた。仕事してたらあっという間にお昼くらいにはなっちゃうし。太りたくないし。
「京也、朝飯」
「ありがと」
コーヒーの香りってこんなに心地良かったっけ。
朝、レースカーテン越しに入ってくる日差しって、気持ちよかったっけ。
「わ、オムレツ、とろとろ」
テーブルに着いて、サラダとオムレツ、それからこんがり焼けたロールパンが二個。ハムもある。
そんな絵に描いたような朝食にちょっと感動。
「とろとろになる方法、教わった」
「へぇ」
あぁ、もう。
恋って、こんなだったっけ?
「へ? 仰木……すか?」
「そ。最近」
仲良しさんが増えた? なんて、まぁ、ちょっと、世間話? 休憩中の他愛もない、職場トーク? なんていうか、まぁ、その。
「んー……どうだろ。フツーに無愛想ですけど」
「そうなの? なんか、ほら、じゃあ、剣斗くんの周りで料理詳しい子っていたりしない?」
フライパン一つでパスタが作れる方法を知ってたり。オムレツをふわふわにしちゃう方法を知ってたりする子。
「んー…………あ!」
「!」
どんな子? 可愛い? 男? 女? 柚葉のこと、その子はどう思ってそう?
「いた!」
ねぇ、柚葉とその子は仲良し?
「子って感じじゃないっすけど」
じゃあ、美人系ってこと? それって柚葉の好みのタイプじゃ……。
「よく料理のこと最近聞いてて」
そう、その子。美人で。
「この前、オムレツの作り方聞いてた」
「!」
「学食のオムレツ、美味かったから」
「……へ?」
「学食の飯作ってくれる人」
「…………」
「熱心に訊いてたっすよ」
え、あの。
「……っぷ」
その笑い声に飛び上がった。低くて、優しい笑い声。
「ゆ、柚葉っ?」
「ただいま。駅前で期間限定のプリン売ってたから買ってきた」
「うわ、美味そー」
「剣斗んとこの分」
「わ? マジ? 和臣の分?」
「あぁ、この前のプールのお土産、美味かったし」
「サンキュー」
ねぇ、ちょっと、どこから聞いてた? ねぇねぇ、今の会話、全部じゃないよね? って、全部でもなんでも、もうその笑い方わかってるんでしょ? 今、の。俺がちょっとザワザワしちゃってたって。ねぇ、ちょっと、ものすごく恥ずかしいんだけど。
「んじゃ、俺、コーヒー淹れてくる」
「ちょ、剣斗くん!」
フットワークも軽く、剣斗くんが奥に引っ込んじゃった。ね、今はちょっと二人っきりにしないでよ。
「…………オムレツの作り方、京也も聞きたかった?」
「! 違っ、これはっ」
ニコニコしないでよ。
はっず。
はっずかしい。
もう、ホント。
「あのねぇ、俺はっ別にっ」
指先まで熱くなっちゃうくらい、恥ずかしくて、照れ臭くて、もう大失敗だよって、わーって、なる。大人の、クリエイターの、美人ネコの、いろんなお面全部、ぐしゃぐしゃにして、皺くちゃにして、パーってばら撒きたい。
「京也」
「な、何っ」
たいしたことじゃないよ。
言ったら、笑っちゃうんじゃない?
なんだそれって、呆れちゃうかも。そのくらい幼くて、おろかで、くだらないこと。
「すげぇ好き」
そのくらい幼くて、おろかで、くだらない、けれど、世界で一番大事で、一生抱き締めて掴んでいたい、この恋一つに昨日も今日も、明日も明後日も、ただ夢中なの。
ともだちにシェアしよう!