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第44話

「幸先輩っ!」 ゆらゆらと肩を掴まれて、俺は一気に覚醒する。 そうだ、今は部活の時間。昨夜のことを思い出している場合じゃない。 俺はぼーっとした頭を起こすために、指で手の甲を抓る。痛みで少し頭がすっきりしてきた。 今日はずっと頭がふわふわしている。昨日あのまま寝てしまったから風邪でも引いてしまったのかも知れない。 「ご、ごめん・・・何?」 「もうっ!!もうすぐ、サッカー部の試合があるじゃないですかっ!!それの差し入れに何持っていこうかって話してたんですっ!!」 樹が興奮したように、手を握ってそう言った。サッカー部のことになると熱くなる樹の性格を知っているので、俺は笑みを返す。 「なんで笑うんですかっ!!このままじゃ前と同じでハチミツレモンになっちゃいますよっ!!」 「でもハチミツレモンも好評だっただろ?」 「そうですけどっ!!料理部なのに、ハチミツレモンって・・・、なんか、しょぼいじゃないですかぁっ!!」 「じゃぁ樹は何を作りたい?」 俺の問いに樹が真剣な顔をして唸り始めた。 これは時間が掛かりそうだ、と俺は思ったので洗面台に残った皿を洗い始める。 サッカー部の試合、風早も出るんだろうか。人員不足だと海が嘆いていたのを思い出して、多分出るんだろうなぁ、と一人呟く。俺も海に誘われたが、生憎俺は正真正銘の運動音痴なのだ。サッカーなんてしたら、足の骨折は免れないだろう。 そんなことを考えながら、頑固な油汚れを落としていく。 すると突然後ろで樹があっ!と声をあげた。 「次の試合って、幸先輩のお友達も出るんですよねっ!何が好きか聞いてみてくださいよっ!!!」 「・・・却下」 「えぇ、なんでですかっ!!」 「なんでも」 ぶぅ、と樹が後ろで文句を言うが振り向きはしない。動揺を悟られないように、だ。 「じゃぁ、海先輩の好きなものってなんですか??」 「カレーじゃなかったっけ。しかも甘い奴」 「え、試合終わりにすぐカレーってきつくないですか・・・」 「海は普通の甘口じゃだめだぞ、もっと甘いやつじゃないと食べない」 「うへぇ・・・美味しくなさそう・・・」 樹が後ろでベロを出しながら、苦い顔をしているのがすぐに想像できた。 「あ、窓の外に先輩のお友達がいますよっ!!」 那智がそう言って運動場を指さした。思わず俺も窓の方に目をやってしまう。 ・・・、見てしまった。風早が女の子と喋っているところ。 喋っているだけじゃないか、どうしてそんなに慌てる必要がある?? 「あれ、彼女ですかね・・・?身長高いしイケメンですもんねぇ、あの人・・・」 樹の何気ない言葉が俺の心に深く刺さった、そんな気がした。

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