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第45話

帰り道、ふとグラウンドを見るとまだサッカー部が練習しているのが見える。試合は来週だ。 俺が料理部に入ってから、サッカー部への差し入れが習慣化した。海がいたから、という理由で応援しに行くときに手ぶらだとだめだろうというので始まったものだ。 今回ばかりは乗り気にはなれない。樹たちに任せてしまおうか・・・。 昨日までの勇気はどこへ行ってしまったのだろう。 一人で家に帰るのも慣れてしまった。 「さっちゃんっ!!」 突然後ろから名前を呼ばれる。振り向けば、自転車に乗った姉ちゃんがいた。 「あれ、なんで?」 「バイトの帰り。今日は早めに帰してもらったの~!」 「へぇ、用事?」 「いや、見たいドラマがあってさ・・・」 それで早く帰れるバイトってどうなのだろうか。俺が呆れた顔をすると、姉ちゃんは苦笑して言う。 「だって、栗原が主演のドラマなのに録画も忘れてて・・・」 「栗原?」 「知らないの!?今をときめくスーパー俳優!!あんな顔に産まれたら万々歳なのになぁ・・・。あ、あんたの友達にもすっごい綺麗な顔の子いたでしょ」 考えこんだ姉ちゃんが、少ししてあ、と顔をあげる。 「ほら、風早って子っ!!あの子も綺麗な顔してたわね~」 どうして今日はこんなにあいつの名前を聞かないといけないのだろう。俺は、あぁ、と素気ない返事だけして姉ちゃんの方も見ずに家へと歩みを進める。 「え、何っ!?あれ、二人って付き合ってんだっけ?」 「・・・付き合ってない」 「何よ、何かあったの?」 「何も・・・ない」 「何もなかったらそんなぶーたれた顔しないでしょっ!!」 自転車から姉ちゃんが降りて、俺の顔を覗き込んだ。俺は多分今酷い顔をしている。そんな顔、見られたくない。 「ほら、泣きそうな顔してるじゃない。やだねぇ、うちの家計の男はみんなグイグイ行かないんだから・・・」 父は、母に告白できずに三年を過ごしたという。姉ちゃんはそれをいつも笑っている。 「あ、いいこと教えてあげる。風早って子ね、あんたのこと好きって言ってたわよ」 「・・・え!?」 「ほんとほんと、真面目な顔してたし嘘じゃないから」 姉ちゃんがそう言ってまた自転車に跨って、すぐに家へと帰ってしまう。 全く・・・、言うだけ言ってすぐにどっか行くんだから。 みんな、風早は俺のことを好きだと言う。本当かどうかわからないけれど、俺のことを好きだと言う。 ・・・信じてもいいのか?

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