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それはまるで夢のような(最終話)
「風呂出るなりここで爆睡。今に至る」
マサキが解説してくれた。
ってうそーん?!
何それ、せっかくのお泊まりデートだったっていうのに?超もったいねー…
時計を見ると、九時を過ぎたところだった。
自分の馬鹿さ加減に、泣きそうだ。
超絶貴重な時間を、寝て過ごしてしまうなんて。
もう無理、立ち直れない…
車に乗り込んでも喋る事も思いつかず、俺は黙って助手席に座ってた。
「今から部屋まで送る」
俺んちまで送ってくれるつもりなのか。
いやでも待てよ。
「い、いらねーよ。その代わり新大阪まで乗ってったらダメ?」
「…いいけど」
不思議そうなマサキはほっといて。
部屋まで送られたら、別れる時間が早くなる。
それに、突然、あの部屋にひとりぼっちになるのは、正直ツラいよ。
「本町あたりで食器でも見ていきたいから」
「じゃあ本町で降ろし」
「いいから!」
新大阪まで行けば、一番長く一緒に居られるじゃん。
そのあと、何か他のこと上書きして帰りたいんだよ。
あちこち寄り道してさ、別れた後の記憶を増やしたいの。
…わかんねーだろな。俺にもようわからん。
新大阪駅近くでレンタカーを返して、改札までついてく。
けどホームで涙ながらのお見送りなんて、したくない。
「じゃな」
ヘラヘラ笑って手をあげる。
さすがに人混みの中じゃ出てこれねーだろ、俺の涙め。
娘ちゃんたちに何かプレゼントでもあげたかったけど。
そんなん出来るわけないし。
たぶんもう二度と会えないし。
「いい子で待ってろよ。16日には戻る」
頭ポンしてくんなし!
そんな優しい声で言うなし!
16って、思ってたよりかなり早いし!
「っんだよ、ガキじゃねーよ」
頭の手を払いのけてやる。
マサキが改札を通り抜け、小さくなってく。
見えなくなるまで、それまでもう少しだけ、ここにいてもいいよな。
まだだぞ、涙よ。
お前は家に帰るまで出てくんな。
この後食器見にいくんだから、お前の出番はまだまだだ。
ーー揃いの茶碗とか買ったら、引かれるかな。
【おわり】
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