21 / 25

それはまるで夢のような(最終話)

「風呂出るなりここで爆睡。今に至る」  マサキが解説してくれた。 ってうそーん?! 何それ、せっかくのお泊まりデートだったっていうのに?超もったいねー…  時計を見ると、九時を過ぎたところだった。 自分の馬鹿さ加減に、泣きそうだ。 超絶貴重な時間を、寝て過ごしてしまうなんて。 もう無理、立ち直れない…  車に乗り込んでも喋る事も思いつかず、俺は黙って助手席に座ってた。 「今から部屋まで送る」  俺んちまで送ってくれるつもりなのか。 いやでも待てよ。 「い、いらねーよ。その代わり新大阪まで乗ってったらダメ?」 「…いいけど」  不思議そうなマサキはほっといて。    部屋まで送られたら、別れる時間が早くなる。 それに、突然、あの部屋にひとりぼっちになるのは、正直ツラいよ。 「本町あたりで食器でも見ていきたいから」 「じゃあ本町で降ろし」 「いいから!」  新大阪まで行けば、一番長く一緒に居られるじゃん。 そのあと、何か他のこと上書きして帰りたいんだよ。 あちこち寄り道してさ、別れた後の記憶を増やしたいの。 …わかんねーだろな。俺にもようわからん。  新大阪駅近くでレンタカーを返して、改札までついてく。 けどホームで涙ながらのお見送りなんて、したくない。 「じゃな」  ヘラヘラ笑って手をあげる。 さすがに人混みの中じゃ出てこれねーだろ、俺の涙め。  娘ちゃんたちに何かプレゼントでもあげたかったけど。 そんなん出来るわけないし。 たぶんもう二度と会えないし。 「いい子で待ってろよ。16日には戻る」  頭ポンしてくんなし! そんな優しい声で言うなし! 16って、思ってたよりかなり早いし! 「っんだよ、ガキじゃねーよ」  頭の手を払いのけてやる。  マサキが改札を通り抜け、小さくなってく。 見えなくなるまで、それまでもう少しだけ、ここにいてもいいよな。 まだだぞ、涙よ。 お前は家に帰るまで出てくんな。 この後食器見にいくんだから、お前の出番はまだまだだ。 ーー揃いの茶碗とか買ったら、引かれるかな。 【おわり】

ともだちにシェアしよう!