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ドアを開閉して中へ進めば無人タイプの受付、部屋を選ぶパネル前には先客がいて、もろに目が合った。 「おい、何してんだよ?」 恥ずかしがって壁と至近距離で向かい合った由紀生に数也は失笑した。 男男カップルが物珍しい若い男女カップルにちらちら見られてもまるで気にすることなく平然としている。 カズ君、入るのに何の抵抗もなかった。 慣れてるみたい。 やっぱり、こういうトコ、来たことあるんだ……。 「オヤジ」 「わっ!」 「部屋決めたから行くぞ」 「ほ、ほんとに? 行くの?」 「はあ?」 「か、帰りたい」 涙目にまでなって壁にくっついている由紀生にムラムラを催した数也、四十路だなんて逆に年齢詐称だろう的な、二十代然とした瑞々しさ保つ父親をそこからひっぺはがし、肩に担いで……は流石にアレなので腕を掴んでエレベーターに強制連行した。 「ど、どうしていきなりラブホなんか」 「オヤジと来てみたかったっつーか」 「家で、じゃ、ダメなの?」 「マンネリ解消っつーか」 マンネリって……今朝連続二回シたのに? 安っぽいパープル照明を浴びて由紀生の胸は否応なしに騒いだ。 初ラブホで戸惑うばかりで恥ずかしいものの興味がないこともない。 一体どんな部屋なんだろう……? 「カ、カズ君」 部屋に通されるなり由紀生は絶句した。 THE・SM部屋。 照明は赤みが強く、壁際にはX磔、拘束椅子、鎖だらけの意味不明なインテリアの数々。 極めつけは部屋のほぼ中央に設えられた檻だろう。 円形ベッドが鉄格子でぐるりと囲まれていた。 「家とはちょっと違う雰囲気味わえるだろ」 「ちょっとどころじゃないよ、全然違うよ」 「SM部屋は人気あって入室できんの貴重だぞ」 「あのベッドについてるの、あれ、手錠なの?」 「遊園地みたいだろ」 「遊園地じゃないよ、目もチカチカして疲れるし絶対遊園地なんかじゃない」 完全ヒいて呆然としている由紀生と、ゴリゴリな雰囲気にやたら馴染んでいる数也。 「やっぱりお父さん無理かも、帰りたいかも、この部屋怖いから落ち着けないかも、ッ、!」 急に背後から抱きしめられて由紀生はビクゥッと油断していた猫みたいに過剰反応した。 「来たばっかで何抜かす」 「カズ君……だって」 「だって、じゃねぇよ、なぁ、オヤジ」 抱擁が少しだけ緩み、由紀生は、自分よりも逞しい両腕の輪の中で恐る恐る体の向きを変えて数也と視線を交えた。 SMルームに怯え気味の由紀生の唇を塞ぐ寸前に数也は低い声音で不埒な囁きを。 「いつもより喘がせてやるよ」

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