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第206話
男の名前はカガワと言うらしい。
カガワは嬉しそうに笑っている。
僕は嬉しくない。大好きなアリスともう会えないから。
大切な人と引き離されて、笑える訳がない。
「俺たち、やっと家族になれるんだね」
「家族……」
僕にとっての恋人も、家族もアリスだけ。
辛い、悲しい。
泣きそうになっていると、カガワの携帯が鳴った。
カガワは一旦部屋を出て行った。
フロントに電話…… 今しかない、そう分かっているのに手が動かなかった。
もし俺が電話して助けを求めたとしたら、アリスがあの男に殺されるかもしれない。
そう考えると、怖くて……手が震えて動かなかった。
「……会いたい……」
ベッドに蹲って、シーツを深く被り涙を流した。
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