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第1話 - 01
階段を1段1段上る度、リノリウムの床は上履きと擦れてきゅ、と音を立てた。
それは授業中の校舎には自棄に大きく響いて、その度に僕を怯えさせる。
自習の教室を勢いで飛び出してしまったが、さぼりだとバレたらどうしよう。しかしそれは、僕にとって本当は要らない心配だった。
――だって、僕は今から死ぬ。死んでしまえば、授業なんか関係ない。
それでも、僕の頭は不安でいっぱいだった。なら早く死んでしまおう。僕は不安を掻き消すように、屋上へと続く階段を駆け上がる。
しかし、屋上へと続くドアのレバーに掛けた右手は少し震えていた。それを誤魔化すように、レバーを強く握る。それは僕の手にひやりと冷たかった。
死ぬのは怖くないはずなのだ。何度も何度も様々な死に方を頭の中で反芻して、いつ死んでもいいように遺書も書いた。頭の中だけなら百回は死んでいる自信がある。
「でも、飛び降りかあ」
飛び降りて頭が潰れてしまったら、“あの人”はその遺体が僕だと気付いてくれるのだろうか。少しくらいは悲しんでくれるのだろうか。もっと綺麗に死ねる方法を選ぶべきだったか。
しかし、今の僕にはあの息苦しい教室に引き返すだけの勇気も、余裕もなかった。
死にたい。
僕の心はもう、ずっと前からそんな言葉を叫んでいる。思えば不幸だった。何一つ幸せなことがなかった。
教師から押し付けられる過度な期待が。クラスメイトからの罵倒や嘲笑が。そのどれもが僕の心を蝕んで、殺すのだ。
死のう。意を決してドアレバーを押し込めば、開いた隙間から生ぬるい風が吹き抜ける。
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