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第1話 - 02

「あつ……」  そこから漏れる光は6月だというのに厳しくて、思わず目を瞑る。手を翳しながらゆっくり目を開くと、目に痛いくらいの快晴だった。  雲一つない空を、飛行機が飛んでいる。死ぬには勿体ないくらいの天気だ。 「こういう時は日向でお昼寝とかしたいよなぁ」  思わず独り言ちて、その平和すぎる内容に苦笑する。今から昼寝どころか永遠に眠ることになるのに。呑気にそんなことを考えつつ、屋上の扉を後ろ手で閉める。  屋上は転落防止かよじ登るには高いフェンスで囲われているが、この前の生徒会での見回りの途中に、偶然そこに綻びを発見したのだ。  そこからなら飛び降りられる。その綻びを確認すべく空から下げた僕の視線は、とある違和感を掴まえて止まった。  その違和感に目を凝らせば、それは眠気を催す心地のいい光の中、フェンスに背中を預け座り込む、人、だった。 「!」  なぜ気付かなかったのだろう。気持ちだけは焦るのに、僕の足はその場から一歩も動かなかった。授業中に、こんなところにいるのが誰かにバレたら。この期に及んでそんなことを考えても仕方が無いのに、言い訳を探しながらその人物を観察する。 「……あ」  瞬間、どきりと心臓が跳ねた。  太陽光を反射してきらきらと光る、烏の濡れ羽のような黒髪。制服に包まれたその肩は、一定のリズムで上下している。どうやら寝ているらしかった。  その目は固く閉じられているが、その横顔はあまりにも綺麗だ。きゅ、と引き結ばれた唇に、不機嫌そうに顰められた眉。どんな夢を見ているのか、時々ごそりと身じろぎをする。  それは、見紛うはずもない。――僕の好きな人、だった。

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