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四、誕生
「父さん、まさか――」
「ああ、まさかだ」
厳粛な顔つきで、それは歩を進めてくる。伊月は僕を抱きしめた。
「やめて、それだけは……。強制執行、だけはやめてくれ」
「なにを言っているか」
鎌が、やれやれという風に振られる。
「我々は左様な流派ではないと教えただろう。――息子よ、彼は、名簿から除名だ」
「……え?」
僕も、ぽかんとした。
「どうも、だ。急に魂の寿命が延びたようだ。連動して体の方もな。ゆえ、回収阻止のため、私が死神の全速力でやってきた。はぁ、たるんだおっさんにはきつい運動だった。ホットミルクなどないか?」
死神男――伊月の父は、どっかと椅子に腰掛けた。
*
つまるところ、僕がもっと生きたいと願ったために、限界が遠のいたようなのだ。
ともあれ三日後の精密検査でも異常なし。
体感としても、僕は前より健康体だ。
*
「椋はさ、俺と似てる気がしたんだ。だから話したくなった」
春めく朝。死神のタマゴ卒業記念で初めてのお泊まりを経て、同じ布団の伊月が言った。
「俺は、弱いところを人に隠してきた。元気なヤツって殻でさ。椋も、無理してるとこがあっただろ」
「……かもね」
生きたいという願いもなく、気丈にしなければという義務感だけがあった。今は、違う。苦しさを分かちあう人がいて、やりたいことがたくさんある。
笑うと、伊月の指が、僕の下に触れてきた。血の上る顔を腕で覆おうとしたが、阻まれた。
「俺だけに見せる顔、見せてよ」
弱い顔も甘い顔も、と付け加えられる。
ああ――彼は気持ちよさも、分かちあう人だった。
「見せるの、伊月も、だから」
「約束する」
*
母さんの卵焼きに、甘い味がしだした。ある日そう伝えてつくり方を聞くと、喜んで教えてくれた。
「我が家に伝わる黄金レシピよ」
僕が物心ついたときから、調味料は同じ比率のようだ。どうも、舌の方が変わったらしい。
美味しさを知った舌は、食べるのにもつくるのにも興味が向いてきた。とりあえず、調理の初歩から練習開始だ。実は伊月は弁当自作だと聞いて、対抗心まで湧いていた。
……伊月とお弁当をつくりあいたい。一緒に料理もしたい。
これが、最近の僕の願いその一とその二とである。
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