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第1話
船が漸く岸に乗り上げたのは、雨が降りしきる晩夏の夜だった。
流罪になれば命は無ようなものだと言われたが、幼い時には既に南へと追いやられ、腕っ節だけで生き抜いてきた自分にとっては、生易しい刑罰だとも言える。
八郎は案内人としてみやこから一緒に来た男を不憫そうな表情で見やる。
自分が一緒にいた道中では、身の丈の大きさに怯えて盗賊などは襲うべくもなかったが、帰りの道中はそうもいかないだろう。
「アンタは、こっから帰るんかい」
「報告しなければなりませぬので」
八郎は頭一つ以上下にある、男の頭を見下ろして腰につけた袋からひとつ丸いまがつ玉を取り出して手のひらに載せて差し出す。
「守り玉だ。もしも、賊につかまることになったら、そいつを身代にすればいい。前院から賜ったご利益と金になるものだからな」
「八郎様、そのような大切なものを私ごときが」
「わしが持っておっても、金にも腹の足しにもならんからな。食えねえし」
くっくと笑っていると、みやこからの伝達で島で待っていたらしい住人達がわらわらと小屋から出てくる。
「まあ、二度と会うこともねえと思うが、また、あったら美味い飯でも食わせてくれ」
道中でこの案内人が作ってくれた食事はみやこのもの程ではなかったが、限られた食材で精一杯の美味さものだった。
住人達は、船から立ち上がった八郎の巨体を眺めて畏怖するかのような形相を浮かべていたが、すぐに切り替えたように、骨が折れて動かない腕をぐいと掴んだ。
「ッ、ちィ、いてぇッ、いてえって」
「早く歩け。じきに大嵐になる。夏が終わると神の風が吹き荒れる」
頭を下げて八郎を見送る案内人に、動く腕を上げて手を振ると、住人達に腕を引っ張られながら、島の高台へと登らされる。
ごうごうと海が荒く渦を巻くのと波が打ち付けるのに、焦って八郎は先程の岸へと視線をやると、大きな波に乗っていた船が打ち付けられ、バラバラと波の中で木材が浮かんでいる。
案内人の姿はもう見えない。
「ちょっ、と、待て!!あやつを、助けねば」
「あの男なら、だいじょうぶだ。かいざが抱えて登ったからな。お前はそうはいかないから、さっさと上の小屋まで連れてかなくてはならん」
男達のいうことが、全く飲み込めなかったが、強くなる雨に打ち据えられて、ずぶ濡れの体を何とか鼓舞して登ると石の壁で囲まれた小屋が、崖の上にあるのが見えた。
「それにしても、みやこから来た割に身体がでかいな、アンタ」
「生まれつきだ」
「鬼の子よりでかいな」
住人達は八郎の見た目に対する驚きを口にしながら、木製の扉を引き、中に入れとその背を押した。
「わしらの仕事は、おまえさんの監視だからな。これだけで、みやこから布や食べ物が運ばれてくる。まあ、おまえさんも、すぐに死んでしまうのだろうけど」
こないだ来たお貴族様も、ひととせもたなかったと呟くと、小屋の戸を閉めて彼らは立ち去った。
真っ暗な壁しかない部屋に敷かれた茣蓙の上に、八郎は漸く寝転がるとふと笑う。
「この八郎を、お貴族様と一緒にするな、よ」
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