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第2話

兄が父を斬る姿を間近でただ見ていた。 無理矢理のように戦いに駆り出された父親を守ろうと足掻いたのは、嫌われていた自分の力を請われたからもあったが、欲しくても手が届かない親の愛情とやらに飢えていたからだ。 力及ばなかったことは口惜しいが、父親を斬られたことには、何の感情もなかった。 それからは生き延びるために、ただただ逃げた。 あ、ついな。 小屋の壁の隙間からキラキラと入り込む光は眩しい。 起きなくてはとは思うが、外れた肩と折られてた腕が化膿しているのかじくじくと熱をもっていて体がだるい。 「とがびとは、いるんか」 響いた声と共にギイと開いた扉から入る熱風は、それでも閉じ込められた小屋の熱された空気と比べて爽やかだった。 逆光に目を細めると、艶々と鮮やかな麦の穂に似た髪を纏わせた色白の肌で碧眼の男が、近寄ってくる。 「とがびと、お前もすぐに死んじまうんだろ。みやこのもんは、すぐに死ぬ」 ぐったりとしたままの八郎を覗きこんで、手桶から大きな葉で包んだ焼き魚と、粟を葉でくるんだものを持ってくる。 鬼か。 住人達が鬼の子と呼んでいるのは、この男のことだろう。昔語りに聞く風体とは異なり額にツノはないようだ。 「わしははちろう、だ。きずぐちから病がはいりこんだだけだ。わしは死なぬ」 「はちろう。おれの名はカイザ、鬼の子だ」 自分で鬼の子だと名乗るが、特に住人から迫害されてもない様子ではある。 「それは食べていいのか?」 ゆっくり身を起こして、粗末な食べ物を指さすと、少し驚いたように真っ青な目を八郎へと向けた。 「食べるのか」 「あ?食べるぞ。それは食べ物だろう」 八郎は片腕を不器用そうに左手を差し出すと、カイザはそれをその手に葉の包みを置く。 置かれた葉の先を歯で銜えると、ぺりぺりと引き剥がし、現れた粟を口の中に含むと、もぐもぐと咀嚼する。 ここに来た咎人は、大体はここの食べ物に慣れずに、なかなか口にしようともしなかった。生きるためという名目で何とか食べてはいたが、進んで食べる者はいなかった。 「うまいか」 美味いなどと言われたことはないが、思わずカイザが問いかけると、八郎は頷いてぺろりと指についていた粟を舐めとる。 「ああ。いい塩加減だな。こっちは、魚か?すげえいい匂いがする」 鼻を鳴らして指さす焼き魚に、流石に片手では食べづらいだろうと葉を剥がして串を差し出すと、顔を寄せて噛みちぎる。 島の住人達と変わらない様子に、少し安堵したような表情でカイザは、八郎を見返した。 「おまえは死にそうにはないな。俺たちは、おまえを逃がさないよう、死なさないように見張る仕事をみやこの天子かなんかから引き受けている」 「あー、みかど、ってんだよ。わしは、あんまし好きじゃねえけど」 差し出された焼き魚に食らいつきながら、唇の端を引き上げて笑う男に、カイザは骨に気をつけろと告げ、嵐の後は大漁のはずだから、明日はもっと沢山持ってくると腰をあげて小屋を後にした。

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