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第3話
一面に広がる大きなゆりの花を掻き分けながら、八郎は島の崖を登っていく。カイザの住処は崖の上だと聞いたが、草いきれの中で視界が悪い。
漸く崖を登りきると、茣蓙の上に座ったカイザが繩を編んでいるのが見えた。
「何を作っている」
声をかけると、驚いた様子で青い目を光らせて振り返り顔を見上げてくる。
「網を作っている。これで魚を捕る。モリでつくよりたくさんとれるのだと、鬼が皆に教えたらしい」
「おまえの父か。健在なのか」
問い返すと、知らぬと言ってカイザは首を横に振った。
「鬼とかかあは、鬼が島に行ってしまった。俺ははやり病で一緒に船に乗れなかった」
迎えにきた鬼の仲間と父親と母親は、島を後にしたのだとカイザは語ると、しっかりと編み上げた網を片手に、八郎の顔を見返す。
「はちろうは、おれが怖くないのか」
初めて会った時にも驚かなかったなと思い返しながらカイザは問いかける。
「わしのがでかいし、力があるからな。怖がる必要はない」
それより、綺麗な生き物だと見蕩れたのだと告げると唖然とした表情でカイザは八郎を見返した。
傷口からの熱は下がったのか、ここ何日かで八郎は島を見て回り、周りの住人達とも打ち解けたようだった。
「はちろうは、自信があるのだな。朝捕ったさかながあるから、焼いて食べるか」
問いかけると、八郎は頷いて置いてある石垣の石に腰を下ろした。
「かいざは、歳はいくつだ」
「19歳になった。鬼ではなければ、子供の1人や2人は作らなくてはならないのだけどな」
桶に入った魚を串に刺しながら、鬼は相手にされないのでひとりものだと呟く。
「わしも妻はおるが、遠い西の国だ。もう逢うこともないだろう」
「はちろうは、いくつになるのだ」
石で囲んだ焚き火に魚の串を立てながら、火打ち石を鳴らして木に火をつけてくべる。
「そろそろ18になるところだな。かいざの方が、歳は上なのだな」
魚を炙られる様を眺めて、手を伸ばして金色の髪に触れる。
「な、なに?」
「おまえのこれはこがねのようで、うつくしい櫛だ」
焼ける魚を眺めて、食べさせて欲しいとばかりに八郎は口を開く。
「腕は治らないのか」
「ハメ直してもらえれば、治るだろうな」
口に運ばれた魚をくわえてガリガリと骨ごと一気に喰らいつく。
「痛そうだな」
「大したことはない。痛みなど、慣れてるからな。それより、かいざは、本当におなごを抱いたことはないのか」
八郎の問いかけに、カイザはさきほども言ったと付け足して、ないと答えた。
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