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3 個室 1☆
個室に入って鍵をかけると、つかんだままだった吉川の手を離して、狭い部屋の大部分を占めているダブルベッドへと向かう。
ヘッドボードを確認するとコンドームとローションが置かれていたので、ローションの方を手に取った。
吉川の方に向き直ると、やつはまだ青い顔のままでドアの前に立っていた。
「スマホ出せ。
ああ、ロック外してな」
平坦な口調で俺が命じると、吉川はおびえた様子で女物の小さなハンドバッグからスマホを出してロックを解除してこちらによこした。
受け取ったスマホは、幸い俺が使っているのと同じタイプの人気機種だった。
俺は操作に戸惑うこともなくカメラを起動し、そのままベッドの上にそのスマホを置いた。
そうしておびえた様子の吉川の顔を見つつスーツの上着を脱いだ後、俺はほんの一瞬だけためらってから、ベルトを外してスラックスを下着ごと下ろした。
「っ……!」
突然の俺の行動に、吉川の目が大きく見開かれる。
驚いている吉川には構わず、俺はベッドに腰掛けて、シャツの裾に隠れていた自分のモノを取り出し、まだ萎えているそれにローションをかけた。
「……っ、…ふ……」
いつも自分一人でしている時と同じようにソレを握って扱きあげると、自然と声がもれる。
吉川に誤解されてちょっとやけ気味になっていたのと、ローションの助けもあって、手の中のモノはあっという間に固くなった。
こんなふうに好みの男に見られている状況ですぐに勃てられるなんて、俺も案外変態だな。
どこか他人事のようにそんなことを考えながら、俺はベッドの上に置いたままだった吉川のスマホを手に取った。
そしてあらかじめ起動してあったカメラを自撮りモードに切り替えると、自分の顔と勃起したモノの両方を画面に収めてシャッターを切った。
「ほらよ」
用の済んだスマホを吉川に放ると、吉川は慌ててそれを受け取った。
受け取ったばかりのスマホをすぐに操作し始めたのは、俺がさっき撮った写真を確かめるためだろう。
そうして写真を表示出来たのか、スマホを操作する指を止めた吉川は、急に耳まで赤くなった。
……いや、さっきまで目の前でやってた時はなんともなかったのに、写真見て赤くなるとかおかしいだろう……。
そうは思ったものの、吉川が俺の痴態に何かしらの反応を示したことに、俺の機嫌は少し上向く。
「あの、藤本さん、これ……」
「ん? 保険だよ」
「……保険?」
「そ。
お前が女装してるって証拠のない話より、俺の勃起写真の方がよっぽどバラされたらやばいだろ?
だから、お前が女装のことをバラされるのが不安なんだったら、保険にその写真持っとけよ」
俺がそう説明してやると、吉川は驚いた顔になった。
「……あの、藤本さんは、俺がこの写真を悪用するとは思わないんですか?」
吉川が不安そうにそんなことを聞いてきたが、俺は笑い飛ばしてやった。
「もしお前がそんなことが出来るやつだったら、あんなに毎日残業してないだろ?」
俺がそう言ってやると、吉川はほっとしたように表情を緩めた。
「確かに、その通りですね」
そう答えてスマホをバッグにしまった吉川に、俺はさっきから考えていたことを提案してみることにする。
「ところでさ、物は相談なんだけど、お前、今、パートナーとかいる?」
「……いえ、いませんけど……?」
こんなバーに来ていながら俺の意図がわからないのか、吉川は首をかしげた。
「だったら、もしよかったら、このまま2人でこの部屋使わないか?
……あ、っていうか、カウンター席に座ってたってことは、もしかしてお前、そういう気ない?」
出会い系のバーとはいえ、吉川が座っていたのはナンパ禁止のカウンター席だ。
俺の写真を見て赤くなるくらいなのだから、少なくとも性的嗜好はゲイで間違いないのだろうが、こいつの性格からして一夜限りの関係というのは好まないかもしれない。
吉川の反応に浮かれてつい誘いをかけてしまったが失敗だったかと、俺が密かに後悔していると、吉川が口を開いた。
「いえ、あの、そういうわけではないんですが……。
ただ、その、俺出来たら、この服のままがいいんですが……大丈夫でしょうか」
「……なんだ、そんなことか。
俺だってこういうバーに来るくらいだから、別に相手が女装してても抵抗はないよ」
積極的に女装の男がいいというわけではないが、相手がそうした方が楽しめるというのなら、お互いが楽しむために女装のままでいてもらって構わないと思う。
それに。
「さっきカウンターでお前を見かけた時、その姿、似合ってると思ったよ。
だから、そのままでいい」
俺がそう言うと、吉川は何だか泣きそうな顔で微笑んだ。
「ありがとうございます。
……では、よろしくお願いします」
ようやくそう答えた吉川に、俺は微笑んで「うん」とうなずいた。
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