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おまけ:パーティー 1
俺たちの付き合いは順調に続いている。
どれくらい順調かというと、そろそろ2人で一緒に暮らそうかという話が出始めて、その流れで衡の家族に2人揃って挨拶に行ったくらいに順調だ。
男である俺が、大事な息子や弟の恋人だと言って現れたら、衡のお母さんやお姉さんたちはどう思うだろうかと不安だったのだが、あらかじめ衡が付き合っている相手が男だということをきちんと伝えておいてくれたらしく、俺は思いの外 好意的に迎えられた。
お姉さんたちが興味津々といった感じであれこれ聞いてくるのだけは少し参ったが、その他には特に問題もなく顔合わせは終わり、帰り際にはお母さんに「晴希さんがいい方 で安心したわ。また2人で晩ご飯でも食べにいらっしゃい」と言ってもらえるくらいには受け入れてもらえた。
ちなみに俺の方は、両親ともに古くて頭の固い人間で、男の恋人なんか連れて行ったら血圧が上がったりショックで寝込んだりしかねないので、衡のことは同じ会社の友人とルームシェアするかもしれないと話してあるだけだ。
衡のうちの場合は家族に恋人のことを隠していると色々と心配されるだろうが、俺のうちの場合は隠していた方がかえって親孝行なのだということで、衡にもそれで納得してもらっている。
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そんなわけで会社帰りに衡の部屋に寄って物件情報を見ていると、隣でメールを読んでいた衡が「晴希さん、ちょっといいですか」と声を掛けてきた。
「ん? どうした?」
「あの、このメールなんですけど、例のバーのママからだったんてす。
今度お店の周年記念パーティーがあるので、晴希さんと一緒に来ないかという誘いなんですが」
衡が渡してくれたスマホのメールを読んでみると、冒頭はパーティーの案内の一斉メールらしく、俺たちが付き合うきっかけとなった女装バーの店名やパーティーの日時、会費制予約制であることなどが書かれていた。
あまり詳しいことが書かれていないのは、店の性質上、店の場所やパーティーの内容などを書くと人に見られた時に困るからだろう。
パーティーの案内文の後に数行改行して「しばらくこちらに来てくれていないけれど、その後ハルさんとはどうなの? もし良ければ、ハルさんと一緒にパーティーにいらしてください」というママの一言が添えられていた。
「あー、そういえばあの店も長いこと行ってないもんな」
衡は勇気を出して俺に告白したことで自分に自信が持てるようになったらしく、俺と正式に付き合い始めてからは女装しなくてもセックス出来るようになったので、2人であの店で待ち合わせる必要もなくなって、すっかり足が遠のいてしまっている。
「はい。
俺、あの店には毎週のように通ってましたし、ママには愚痴も聞いてもらってましたから、急に行かなくなって、ママは心配してくれてるんだと思います。
だからもし晴希さんさえよければ、一緒に行ってもらえませんか?
パーティーは女装の方の客オンリーなんですけど、仕事帰りにスーツのままで顔だけ出すような人も多いので、女装しなくても問題ありませんから」
衡の話に俺は迷うことなくうなずく。
「おう、いいぞ。
今2人でこうしていられるのはあの店のおかげでもあるんだし、2人でママにお礼言いに行こう」
俺がそう答えると衡はほっとした様子で「ありがとうございます」と言うと、さっそくメールに返信し始めた。
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2人で話し合った結果、パーティーの日は開始から1時間後くらいの場が落ち着いた頃に行くことにした。
2人とも女装するつもりはないし、ママ以外にそれほど親しい人もいないので、ママの手が空いている頃に行って少し飲みながら話だけして帰ってくればいいだろう。
時間を見計らってバーに行くと、店内ではみな飲みながらなごやかに話をしていた。
今日は立食形式になっているらしく、いつも置かれているソファーや低いテーブルは端に寄せられ、中央に広くスペースを取っている。
そこには女装やスーツの男性だけではなく、美容師のような白のシャツに黒のパンツかスカートをはいた女性も何人か混ざっている。
どうやら彼女たちはいつも裏方としてメイクを担当している人たちらしい。
「いつもとは、だいぶ雰囲気違うな」
「ええ。開店パーティーにはナンパ目的の客は招待しませんし、個室も閉じてるので、今日は純粋に同じ趣味の者同士の会話を楽しむ感じですね。
メイク担当の方も参加されるので、メイクのコツを聞いたりしてみんな盛り上がってました」
「へー」
自分も何回か参加したと言っていたわりには他人事のような言い方なのは、衡自身はその会話の中に入ることがなかったからだろう。
パーティーなのにいつもと同じようにカウンターのすみに座って1人で飲み、時々ママにかまってもらっている衡の姿が目に浮かぶようだ。
「2人ともいらっしゃい。待ってたのよ」
カウンターから出て客と話していたママが、俺たちに気付いてこちらにやって来た。
パーティーにふさわしく真っ赤なドレス姿のママは、いつも以上に迫力がある。
「今日はおめでとうございます。
ごぶさたしてしまって、すみません」
「あら、いいのよ。
こうやって2人で来てくれたんだから」
衡が謝ると、ママはひらひらと手を振った。
「そんなことよりもヨッちゃん、早く着替えていらっしゃいよ」
「あ、いえ、今日は俺、女装はしないつもりで……」
「あら、だめよ。
ヨッちゃんが久しぶりに来てくれるっていうから、最近入ったヨッちゃんが好きそうなお洋服、ちゃんと取っておいたんだから。
さ、あなたたち、ヨッちゃんの着替えとメイク、お願いね」
衡はいつの間にか近くに来ていたメイク担当の女性2人に背中を押され、「あ、いえ、ちょっと」と慌てている。
「ハルさんはこっちね」
「えっ」
まさか自分にもとばっちりが来るとは思わず気を抜いていた俺は、いつの間にか隣に来ていたママにがっちりと肩を組まれる。
そして俺たちは2人とも──衡はおそらく心理的に女性を力ずくで振り払うことが出来なくて、そして俺は見た目通り力のあるママを物理的に振り払えなくて、そのまま別々に連れ去られてしまった。
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