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嘉平

破れかけの麻袋を懐に入れ、嘉平はよたよたと町の中を走る。そこら辺の小石のような風貌の嘉平を気にかける者などいない。時折、誰かにぶつかっては平謝りする姿を、夜空を照らす月だけが見ていた。 今日は、ひと月が終わる日。嘉平にとって、待ちに待った日なのだ。 もうすぐ、もうすぐ会える。姿は見れないけれど、声も聞けないけれど。ほんの少し、指先にしか触れるしかできないけれど。 それでも、やっと会える。 華町に居る、月を携えた鬼に。 「またお前さんか。今回はまた、ずいぶんと汚い格好だねぇ」 「これでも、綺麗にしたつもりなんですけど、」 「まぁいい。さっさと金寄越しな」 嘉平の目的地である店の暖簾を潜り、待ち構えていた女に嘉平は麻袋に入った銭を渡す。中に入っているのは、このひと月嘉平が生活に使う銭を削りに削って貯めたものだ。今回はいつもより少なく、たったの30文。 遣手である女もそれに気づいたのだろう。少しイラついたように煙管の灰を落とし、嘉平をぎろりと睨んだ。 「あんた。こんなちっぽけな銭で、鬼月(きづき)に触れられると思ってんのかい」 「っ、」 「この店は、そんな甘くないんだけどね!」 そう言って女は受け取った麻袋を、嘉平に返した。普通に手渡しするのではなく、中身をばらまくようにして投げて返したのだ。嘉平は慌ててばらまかれた銭を拾う。その様子を、女は笑ってみている。 やっとのことで銭を拾い終えた。そして、諦めきれずもう一度女に渡そうとするが受け取ってもらえない。受け取ってもらえなければ、中に入ることすらできない。高笑いする女に背を向け、嘉平は帰るしかなかった。 しかし、そんな嘉平を引き止める男がいた。 「待て、嘉平。鬼月が30文でもいいから連れてこいとのことだ」 「え、?」 「チッ!鬼月の奴、金にならないって知ってるだろうに。こんな汚れた餓鬼、呼んで何になるってんだ!」 女がギロリと嘉平を睨む。しかし、嘉平を引き止めた男が庇うようにして前に立った。 「うっせーよ、婆さん。鬼月の好きにさせろって、楼主から言われてんだろ」 それだけ言うと、男は嘉平の手を取り歩き出そうとする。嘉平は慌てて草履を脱いで男の後に着いていった。

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