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Turning Kiss 1
「じゃあ、証拠を見せてよ」
休日の昼下がり。小洒落たカフェの一角に、鋭い声が響く。
修羅場だというのは誰の目にも明らかで、けれど周囲は必死に見て見ぬ振りをしてくれている。
俺だって、その他大勢の目撃者になれるものならなりたいさ。
溜息をつきたいのをグッと堪えて、ひたすら耐える。目の前では、元彼女の小夜子が俺を上目遣いに睨みつけながら、頬を膨らませて怒っている。
そんな表情じゃあ、かわいい顔が台無しだよ。なんて、俺が言えた義理じゃないけど。
「勘弁してくれ、証拠だなんて。無理に決まってるよ」
ほとほと困り果ててしまう。我ながら、本当に情けない。
「そうでしょうね。その子と付き合ってるだなんて見え透いた嘘が、本気で通るとでも思ってるの?」
普段は愛らしく見開く丸い目が、ツンと釣り上がっている。まあそりゃ、怒るのも無理ないよな。
横目でチラリと俺の隣に座る人の様子を伺うと、意外にもこの事態に動じているようには見えなかった。それどころか、口元に涼しげな微笑みを浮かべている。
きれいな顔だなと、改めて感心する。
「別れてからも、セックスしたいって誘ってきたのはそっちでしょ。なのに今更縁を切りたいだなんて、無視が良すぎるのよ」
「おい、声が大きいって」
慌てて咎めても、もう遅い。周りのテーブルの客が一斉にこっちを見ている。
別れた女を弄ぶ、サイテーな男。瞬時に周りからそんなレッテルを貼られたのがわかった。
ああそうだよ、全部俺が悪いんだ。
別れてからも、身体の相性が良くてつい都合よく小夜子を利用してきた俺が、間違いなく駄目人間だ。
でも、ずるずるとそんな関係を続けているうちに、小夜子があわよくば俺とよりを戻したいと考えていることに気づいてしまった。
セックスするのはいい。だけど、恋人にするには窮屈な女。それが、俺にとっての小夜子だ。
このままじゃよくないと、流石の俺も考え直したんだ。
だから、うまく小夜子が俺を諦めてくれるように、新しい恋人に徹してくれるという子を探して、わざわざ金を出して雇ったのに。
「そんな男の子なんか連れてきて、一体何の冗談? いい加減にしてよ」
いやあ……おっしゃるとおりです。
と、つい頷きそうになる。
だって、俺もさっき初めて会うまで知らなかったんだ。
四日間五万円で俺の恋人役を引き受けてくれたアスカが、まさかの男だったなんて。
「証拠があれば、諦められる?」
ずっと黙っていたアスカがおもむろに口を開いた。小夜子がムッとした顔をして睨みつける。焦った俺は、ただ二人の顔を交互に見比べることしかできない。
凛としたアスカの横顔は、どんな女も敵わないぐらい美しかった。余裕のある微笑みは、この状況を楽しんでいるかのようにも見える。
「仕方ないね」
溜息をつくようにそう言って、アスカは俺の首に腕を回してきた。──ん?
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