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Moonless Kiss side A 3
軽くキスを交わすと、また体温が上がっていく。
もうすぐ僕は沙生と同じ大学に通う。沙生は遺伝子工学の研究が忙しいから、大学ではきっとそんなに会えない。
それでもキャンパスで一緒にいられるときは、沙生と手を繋いで過ごす。
そんなことを想像するだけで、心の中が温かなもので満たされていく。
見つめ合いながら右手で沙生の左手を取って、しっかりと握りしめた。
「沙生、離さないで」
そっと頷く沙生の微笑みは本当に優しい。
このまま時間が止まってしまえば、どれだけ幸せだろうか。
「飛鳥」
大好きな沙生の声が奏でる言葉は、僕の涙腺を刺激する。
『愛してるよ』
「──アスカ」
闇の中でぼんやりと僕の顔を覗き込む瞳が見えた。小さな頃にうっとりと眺めていた硝子玉のような、煌めく鳶色の瞳。
でもそれは、サキのものではない。
「ユウ……」
親指で目尻をそっと拭われて、初めて自分が泣いていることに気づく。
ああ、あの光景は失った過去の片鱗だったのだ。
「サキの夢を、見てた」
言葉にすればそれが夢だったことをはっきりと自覚して、僕はゆっくりと絶望していく。
優しく抱き寄せてくれるユウの体温は、夢の中のサキのものに似ていた。
夜の空気を吸い込みながらまばたきをすれば、また涙が溢れ出す。
本当は、ここが夢の中なのかもしれない。
僕は今、サキのいない世界の夢を見ているのだ。
でも僕はもう気づいている。これは醒めることのない夢なのだと。
夢の中から引き摺り降ろした甘い熱が、身体に燻っていた。その熱さに堪え切れずに、僕はユウの身体にしがみついて懇願する。
「ユウ、抱いて……」
与えられるのは、どこまでも優しい口づけ。僕は罪のないこの人を闇へと誘う。
自らの弟を殺めた僕のことを、どう思っているのだろうか。それを訊くことがひどく恐ろしい。
もう二度と会うことのできない恋人の面影を投影しながら、僕は歳の離れたこの人に生命を委ねる。
ユウは何もかもを押し殺して、ただ僕の奥深くに身を沈めていく。
抱かれることで全てを忘れたいのに、抱かれる度にサキを思い出す。
月のない漆黒の夜が、僕たちに覆い被さる。
夜明けはまだ、見えなかった。
"Moonless Kiss side A" end
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