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before Lost-time Kiss side A 2

その言葉は、僕の心の中に鋭く突き刺さる。 帰って来ない方がいいと思われているのだろうか。 ユウは四日間の契約を終えた僕を、いつも仕事を早く切り上げて待っていてくれる。天上に近い、あの部屋で。 けれど、義務に駆られてそうしているのだということはわかっていた。 きっとユウは責任を感じている。僕が不安定なこの世界を、死んだように生きていることに。 サキと僕の仲を取り持ってくれたのは、ユウだったから。 「僕、いない方がいい?」 恐る恐るそう訊くと、両脇の下に手が添えられた。小さな子どもみたいにふわりと抱き上げられて、僕はユウの膝上に向かい合わせに跨る体勢になった。 「アスカ」 低く響く、僕を呼ぶ声が耳朶を刺激する。頭を引き寄せられて、唇が軽く触れ合う。 啄ばむようなキスを繰り返せば、だんだん身体が熱を持ち始める。 でも、ユウから与えられるキスには、温度はあっても感情がない。 僕は一緒にいる時間の長さのわりにはユウのことを知らない。 もどかしい熱に焦れて、ユウの唇を割って舌を挿し込む。漏れる吐息も一緒に、ゆっくりと舌で絡め取られる。 「……ん、ぁ……ッ」 シャツの裾から、ユウの手が入ってくる。直に肌に触れられて、ビクリと身じろいでしまう。 「……ユウ?」 唇を離して、僕たちは見つめ合う。 ユウは自分からはけっして求めてこない。ユウとセックスするのは、僕がサキとの辛い記憶を忘れたいときだけ。でも、これではまるで。 ユウが、僕とセックスしたいみたいだ。 「俺にも人肌恋しいときがあるんだ」 自嘲気味に笑って、僕を見つめる。 夜の闇と共に僕を映す、きれいな双眸で。 「じゃあ、帰ってからしようか」 いつも僕がして欲しいときにしてもらってるから。 そう言ったのに、ユウは首を振る。 「……いや、やめておく」 ユウは捲り上げた僕のシャツを降ろす。さっきと同じように僕を抱き上げて、助手席に座らせてくれる。 熱い金属が冷たい海に浸かったかのように、急速に熱が冷めて、普段のユウに戻っていく。 「行こうか」 戸惑いながら僕が頷くと、車のエンジンが掛かった。濃厚な重低音が、ユウの本心を掻き消してしまう。 「僕、ちゃんと帰ってくるよ。だから、待ってて……」 ユウがわずかに微笑んだ気がした。 また、触れるだけのキス。鎮まったはずの熱が、身体の奥で再びチリチリと燻り出す。 もしかして、僕から誘ってくるのを待っているのだろうか。 一瞬、そんな考えが頭をよぎる。 まさか、そんなはずはないのだけれど。 アクセルがゆっくりと踏み込まれて、ランボルギーニは夜の狭間を縫うように走り出す。 帰ったら、いつもよりもう少しだけ甘えてみようか。 闇をゆっくりと流れていく街のイルミネーションに目を細めながら、そんなことを考えてしまう僕がいた。 "before Lost-time Kiss side A" end

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