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OVERNIGHT KISS 8

二人で一緒に温度の低いシャワーを浴びてから、ベッドに潜り込む。 日の暮れる前から浴びるほど飲んでいた上にドロドロになるまでセックスをしたせいで、眠くて仕方がなかった。 俺の腕の中でぼんやりと天井を見るアスカの横顔は、よくできた人形のように整っている。 俺が知る中で一番美しい顔だ。 ふと、アスカが手ぶらでここへ来ていることに気づく。 着替えがないから、店が開く時間になったら外へ出て服を買ってやろう。俺のを貸してもいいけど、少し大きいだろうから。 どの店へ行こうか。好きなブランドがあるなら一緒に行って選んでもいい。 そんなことを考えながら、胸の中にくすぐったいような感情が芽生えていることに気づいて戸惑う。 こんなことを考えるなんて。まるで、生まれて初めて恋をしているかのようだ。 「アスカ、欲しいものがあれば言えよ」 そう声を掛けると、アスカはゆっくりとこちらを向いた。愁いを帯びた瞳が、夜空の星のように煌めく。 その揺らめく眼差しを、花弁のような唇を、濃霧のように揺蕩う甘い匂いを。 全てを、俺のものにしたいと思った。 そのためなら、何かを犠牲にしてもいい。強い衝動に似た独占欲が、頭をもたげ始めていた。 「何でも買ってやるから」 「ううん。大丈夫だよ」 俺の言葉にアスカはそっとかぶりを振る。あんなに淫らに喘いでいた姿からは想像もつかないぐらい、その微笑みは無垢だった。 「僕が欲しいものは、絶対に手に入らないんだ……」 そう言って、ゆっくりと目を閉じる。涙が滲んでいるかのように、目尻に清らかな光が煌めいた。 その顔に覆い被さり、魂を注ぎ込むように唇を重ねていく。 俺はまだ知らない。 このとき、既にアスカを本気で好きになっていたことも。 四日後にはアスカが俺の前から姿を消してしまうことも。 この世界には、どんなに望んでも手に入らないものがあることも。 何ひとつ知らないまま、この夜は過ぎていく。 "Overnight Kiss" end

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