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OVERNIGHT KISS 7 ※
俺はこの男のことを何も知らない。さっき会ったばかりの奴を、セックスしただけで好きになるなんてありえない。
この雰囲気に流されて口にしただけのはずだ。それなのに、その言葉を口にした途端、快楽でいっぱいだった頭の中にどうしようもないほどの支配欲が湧き起こる。
「アスカ……」
その名前を呼べば、アスカは恍惚とした顔を向けてきれいな瞳に俺を映し出す。
そして、桜色の唇から蜜のようにこぼれる、小さな声。
「……サキ……」
俺のことをそう呼んで、アスカは苦しげに息を吐いた。
与えられる刺激に応えて粟立つ肌にそっと口づければ、甘い匂いは一層濃くなった。咲き誇る花に包まれているかのような錯覚をふと起こす。
その瞬間、ガキの頃亡くなった祖父の納棺が脳裏に過ぎった。色とりどりの花に囲まれた、魂の抜けた肉体。
俺は今まさに、この妖艶な男と死の淵にいる。なぜかそんな不吉なイメージが浮かんだ。
「サキ、あっ、あァ……」
やがて、何度も聞こえるサキという名が俺を呼ぶものではないことに気づく。
真意を確かめるためにアスカの目の奥を覗き込む。虚ろな瞳は、俺を映しながらも遥か遠くを見ていた。
ゆっくりと律動を繰り返しながら首筋に幾つもの所有印を刻んでいく。またその顔を見下ろすと、彼方を見る目からは涙がこぼれている。
キラキラと光を纏いながら流れる涙は、生理的なものではないのだろうと思った。
目尻に唇を押しあてて舌で掬えば、そんなことにさえ感じるのかまた吐息が漏れる。
「サキ、大好きだよ……」
耳に届くのは、悲痛な声で奏でられる愛の告白。
なあ、それ。俺じゃないだろ。
喉元まで出かかった言葉を何とか飲み込む。アスカの求める相手が俺ではないことが悔しくて堪らない反面、今はこのまま夢を見させてあげたいとも思った。
こんなにきれいな涙を、見たことがなかったから。
胸の奥からせり上がる熱い感情をごまかすために、アスカの弱い部分を強く突き上げた。
甘い喘ぎ声を漏らしながら、アスカはより深いところへ沈んでいく。それに引き摺られて、俺もまた限界を迎えようとしていた。
「あ、イく、イく……ッ、ああ……っ」
二度目の絶頂は、一度目よりもずっと強かった。
深い海の底で放つ熱を持て余しながら、溺れるように二人絡まり合い、果てていった。
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