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Dawning Kiss side A 1

壁の掛け時計が午前0時を指した途端、耳元に唇が寄せられる。 『飛鳥、誕生日おめでとう』 ベッドの中でそう囁かれて、抱きしめられたまま髪を優しく撫でられる。 その心地よさに酔い痴れながら顔を上げると、鳶色の瞳が煌きながら僕を映し出していた。 『ありがとう、沙生』 愛する人を見つめたまま答えて、口づけを交わす。 舌を絡ませていくうちに、熱の余韻が身体の奥でチリチリと燻る。 『もう十九歳だなんて、大きくなったね』 唇を離した途端、感慨深げにそんなことを言われて思わず笑いがこぼれた。 『親戚のおじさんみたいな言い方だ』 『飛鳥が赤ちゃんの頃から知ってるんだから、同じようなものだよ』 幼馴染みでもある年上の恋人は、優しく笑い返してくれる。その顔が本当にきれいだから、僕はうっとりと見惚れてしまう。 沙生に見つめられる度に、心臓がドキドキして止まらなくなる。幾ら身体を重ねてもこの距離に慣れることがないのは、僕がまだ大人になり切れていないからだろうか。 沙生との六歳の差は、これからもずっと埋まらない。仕方がないことだけれど、僕にはそれが少し歯痒い。 沙生の僕に対する気遣いが、恋人というより年下に対するものだと感じる度に、もっとこの人に釣り合うようになりたいと思ってしまう。 いつか、僕は沙生と対等になれるだろうか。 『早く大人になりたいな』 思わずそう呟けば、沙生は僕の瞳を覗き込んで、ゆっくりと言い聞かせるように唇を動かす。 『大丈夫。どんな飛鳥でも大好きだよ』 そういう優しいところも、本当に好きだと思う。 だけど、僕は沙生に釣り合う恋人になりたいんだ。 『沙生、愛してる』 こんな僕が口にするつたない愛の言葉に応えて、沙生は返事の代わりにキスをくれる。 想いが流れ込んでくるような、優しい口づけ。 何度も舌を絡めて弄ぐり合えば、心まで融かされそうな熱が身体の芯から生まれてくる。 『沙生……』 名前を呼べば、また吐息ごと唇を塞がれてしまう。 互いの存在を確かめ合うように肌を合わせながら、与えられる全ての感覚に心地よく浮かされて、僕は身体の中に沙生を沈めていく。 真夜中の高速道路が好きだ。 闇に覆われた道路に車を滑らせれば、宝石を散りばめたようなイルミネーションが後ろへ向かって流れていく。 座面の低いイタリア車は、低空飛行をする鳥の如く地面を駆け抜ける。 「上手くなったな」 助手席から響く低い声に、僕はそっと微笑みを返す。 「ユウの教え方がいいからだよ」 運転免許を取ったのは、大学に入る前のことだ。それ以来ハンドルを握っていなかった僕は、この数ヶ月間、毎日のようにユウに付き添ってもらい、きめ細やかなレッスンを受けた。その結果、それなりに運転技術は向上していた。

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