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Dawning Kiss side A 2
他の車でも同じように運転できるかどうかを心配していたけど、それを伝えた途端、ユウはレンタカーを借りてくれた。
背の高い大きなバンで一週間ほど練習するうちに、車幅感覚が何となくわかってきて、どんな車でも支障なく運転できる自信がついていた。
今夜は最後の高速教習になるだろう。
「そろそろ帰ろうか」
ユウの提案に僕は頷く。ずっとこうしていてもいいぐらいに気分は高揚していたけど、そんなわけにもいかない。
「そうだね。付き合ってくれてありがとう」
アクセルを少し踏み込めば、ランボルギーニが重厚な唸り声をあげる。
全てを覆い尽くす夜に抱かれながら、僕たちは帰路につく。
ユウのマンションでシャワーを浴びて、そのまま寝室に入った。
照明の消えた部屋には、先にいるはずのユウの姿がない。
「……ユウ?」
リビングにいるのかもしれない。暗がりの中、恐る恐るベッドまで歩いていく。
背後から聞こえた扉の開く音に振り返れば、仄かな橙色の灯りに浮かび上がるユウの姿が目に入った。
手元にシルバーのトレイがきらりと光る。その上には、ろうそくの灯る小さなホールケーキ。
バーのマスターらしい振舞いに見入ってしまう。
ユウは僕の前を通り過ぎて、ソファの前に跪いた。
深緑色のボトルにシャンパングラス。よく磨かれた銀のフォークとナイフ。
そのひとつひとつを、ローテーブルに手際よく置いていく。
「アスカ、おいで」
ユウの元まで歩み寄って、ソファに腰掛けた。
「憶えててくれたんだね」
僕の言葉に頷きながら、ユウはボトルの封を開ける。
よく見ればそれは、シャンパンではなくシャンメリーだった。お酒が苦手な僕に対する気遣いだ。
「せっかく二十歳になったのに、子どもみたいだね」
ユウは微笑んで、グラスに炭酸を注いでいく。
透明なガラスの中で、細やかな気泡がキラキラと輝く。
白い生クリームの小さなホールケーキには、炎の灯る細長いろうそくが二本。
イチゴとブルーベリーがデコレーションされていて、真ん中にホワイトチョコレートの薄いプレートが乗っていた。触れれば壊れてしまいそうなほど、繊細な薄さだ。
そこに書かれた筆記体に、自然と笑みがこぼれる。
"Happy Birthday"
「誕生日おめでとう、アスカ」
「ありがとう」
そっとろうそくを吹き消せば、辺りは闇に包まれる。
ユウが手元のリモコンで照明を点けると、二灯のダウンライトが微かな明るさでほんのりと僕たちを照らしだす。
グラスを手にして、僕たちは乾杯した。
「こんな夜中にケーキを食べるなんて、なんだか悪いことをしてる気分だ」
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