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Criminal Kiss 3 ※

「ねえ、カナメさん」 キスを落としながら服を脱がしていくと、吐息混じりにアスカが俺の名を呼んだ。 「……僕、人を殺したことがあるんだ」 意外な言葉に思わず息を飲む。アスカは真剣な眼差しで、俺を喰い入るように見ていた。 「どういうことだい」 「大切な人と喧嘩をして、いなくなればいいって言ったんだ。そうしたら、その人は死んでしまった」 アスカは小さな声で淡々とそう説明して、哀しげに視線を落とした。 「どうやって亡くなったの」 視線がゆらりと揺れる。しばらくの沈黙の後、アスカは眉根を寄せながら恐る恐る唇を震わせた。 「僕がそんなことを言った後に……窓から、身を投げて」 「……なるほどね」 その答えに、俺は少し安堵していた。 いなくなればいいと言った相手が命を絶ったところで、殺人にはならない。強要罪にさえ抵触しないだろう。 けれど、アスカは自分が殺したと思い込んでいる。その美しい目に涙を浮かべていることが、何よりの証拠だ。 きっと、人を殺した罪を背負った気でいるに違いない。 「だから、僕は誰かが罰を与えてくれるのをずっと待ってるのかもしれない」 淡々とした口調だが、瞳は真剣そのものだった。 罰が下るのを待つ、美しき罪人。 でも、アスカ。俺は罪人を弁護する側の人間で、裁きを下す者じゃないんだ。 「アスカは今、俺を救ってくれてる。今日が終わればあと二日間しか一緒にいられないけど、アスカといると心が安らぐし、とても楽しいよ。だから」 俺はアスカにそっと口づけて、きれいな顔を覗き込む。 その瞳は惑うように揺れ動いていた。 「俺もアスカを救いたい。たとえほんの少しだけでもね」 瞬きと共にゆっくりと目尻からこぼれる雫を指で拭ってやりながら、滑らかな肌にキスを落としていく。 「……あ……っ」 露わになった胸の突起を啄むと、甘い声がこぼれた。熟した匂いが俺を包み込む。 ぎこちない愛撫にもアスカの身体は素直に反応を示し、花がほころぶように緩んでいく。 丹念に隅々まで前戯を施していけば、トロトロに融けたアスカの中は俺の指を誘うように締め付けてきた。 「ん、ぁ……っ、カナメさ……ッ」 声を塞ぐようにキスしながら、そっと覆いかぶさり両脚の間を割いて、ゆっくりと侵入していく。 昨日初めて覚えた男とのセックス。まだ自分のペースで動くのが怖くて、俺は恐る恐る快楽を貪っていく。 アスカの中は湿っぽく絡みつきながら俺を強く締めつける。繋がるところから生まれた熱は快楽に姿を変えて、禁じられた薬のように全身を廻っていく。 「は……っ、あ、ぁ……ッ」 それでも遠慮がちに腰を動かす俺を、アスカは快楽を増長させるように下から揺さぶってくる。 その刺激に堪らず突き上げながら動きを加速させれば、桜色の唇から熱っぽい喘ぎがこぼれ落ちた。 「あ、あァ……ッ、カナメさん……ッ」 細い腕が伸びてきて、俺の背中に回される。 必死に縋りついてくるアスカを抱き締めながら、俺は思う。 罰を望んでいるなんて、嘘だ。 俺には、君が救いを求めているようにしか見えない。 「あ、ぁっ、イく……ッ、ああッ!」 アスカの中が激しく痙攣し、俺の精を搾り取り飲み込んでいった。 情事を終えて腕の中で子どものように眠るアスカを見つめながら、その髪を丁寧に梳く。 俺自身は人を救えるような大それた人間じゃない。 でも、法律は使いようによっては人を救える。 法の下に人を救うのが、きっと俺の仕事だ。 見下ろした先には、天使のようにきれいな人が眠る。 安らかな吐息。無垢な寝顔。 アスカが決して罪を犯していないことを、俺は知っている。 その形の良い唇に、唇をそっと押しあてる。 この美しい束の間の恋人から、いつか罪の意識が消えることを願いながら。 "Criminal Kiss" end

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