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第1章 噂の2人 side 榎本 トウヤ

「なんかまた傷増えてない?」 「不良の癖になんで毎日朝から学校来てんのかな」 入学したての頃からずっとこんな感じで、ヒソヒソと俺に向けられる陰口にはもう慣れた。 最も、中学にいた時も俺のよくない噂話はいつも流れていて、今の状況と大差ねーようなもんだったけどな。 なんでこうも噂好きな奴が多いんだか。 溜息をつき、こそこそ話している奴らにチラッと視線を向けると慌てて目を逸らされた。 俺の目はビームでも放ってんのかよ。 とは言え、新しく傷が増えたのは事実だった。 好んで喧嘩をしているわけではないが、何故か輩に絡まれる機会が多い。 それもこれも意味の分からない噂のせいなんだろうけど、今更その噂を消し去るのは不可能だ。 一方的に殴られるなんてあり得ないし、背中向けて逃げるのも気に食わない。元々穏やかな性格って訳でもねーし。 だからいつも倍返しくらいにしてやるんだけど、昨日は10対1だったから少しばかりダメージを受けてしまった。 そんなこんなで喧嘩三昧の高校生活を送っている俺でも、学校にはきちんと毎日朝から来ている。 親の金で通ってるわけだし、サボったりしたら勿体無いだろうが。 なんでとか聞く程のことなのかよ。 勉強しに来てんだっつうの。 考えなくても分かるだろうに、毎朝毎朝同じ事を囁き合っているクラスメイトが少し馬鹿に思えた。 「ねぇっ、柳楽くん来たってー!」 「ほんとだ!窓から見えるーっ」 「「「柳楽くーーーん!!」」」 俺の噂話は、ある男が来たことによってすぐに中断された。 彼の名前は柳楽 遊衣(やぎら ゆい)。 女みたいなその名前とは裏腹に、王子様のようなルックスの持ち主。 華やかで、中性的に見えんだけど、なんでか男らしさもあるし、多分そこら辺の芸能人よりも格好良い。 そんでもって頭脳明晰、運動神経も抜群、多方面で才能を発揮しているなんて噂もチラホラ聞く。 そんな奴を勿論周りが放っておくわけもなく、うちの学校の王子様と言われているほどの人気っぷりだ。 毎朝アイツが登校するだけで、女子はキャーキャー騒いでうるさいのなんの。 今も靴箱に向かっている柳楽に数人の女子が纏わり付いている。 困った顔で笑ってそれをやんわりと振り解いている。噂の内容は正反対でアイツは賞賛されてんだけど、俺と同じように周囲から騒がれるていることは鬱陶しいんだろうな。

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