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日が暮れていくのを目で追っていた。 当たり前に二人の時間が流れていくのに酷く違和感があった。 夕方が過ぎると先に俺が風呂に入り、その後皐月が風呂に向かった。 1人でも大丈夫だというが心配で脱衣所の外で座って待っていると風呂上がりの皐月に頭を蹴飛ばされた。 謝り倒した後、「いや、絶対俺は悪くない。」と言って怒りだした皐月を見て何故か吹き出してしまい余計に怒られる。 そんなたわいない時間を俺は幸せだと思った。 「熱かったら言えよ。」 「ん。」 ソファに座り、床に座った皐月の髪を乾かす。 細い毛に指を通して優しくできるだけ傷つかない様に。 俺の両足の間にすっぽり収まった体は前よりも小さく見えて、それが少し切なくて。 ゴー、と大きな音の中に皐月の声が混ざる。 「久しぶり。」 「そうだな。」 「前してもらった時、ドライヤーしろって言われて。家に無いのかって聞かれた時に、面倒だからって答えたの覚えてるか?」 「あぁ。」 「あれ、本当はうるさいって怒られるからずっとしてなかっただけ。」 そう言われてもドライヤーは止めなかった。 確かにうるさい。 声が良く聞こえない程、遠くにいるような気がする程。 「他にも隠してた事あるか?」 「ある。思い出せないくらい。」 「俺もある。」 「他人みたいだ。」 「他人だからな。これくらいが丁度いいだろ。」 そう言ってドライヤーを止める。 首まで伸びた髪は、ドライヤーで伸ばしてもクルンと円を巻く。 指で摘むけれどそれは癖毛らしくヘアアイロンでもしないと直りそうにはなかった。 「もう他人じゃ嫌だと思ったから。…ちゃんと思いだしたら言う。だからアンタも教えて。」 「強くなったな。」 「強がってるだけ。」 洗いたてのふわふわの毛を撫でる。 皐月は振り向いて俺を見上げると、少し笑った。 ドライヤーをソファの上に置き腰を屈め顔を近付ける。 「キス、してもいいか?」 「痛くないなら。」 「痛いキスなんかあるか?」 「唇噛みちぎられかけた。」 「俺がソイツは殺しといてやる。」 そう言って唇を重ねる。 小さな唇に1度、触れるだけ。 一度離してもう一度。 空気を求め開きかける皐月の口を塞ぐようにもう一度口付けた。 優しく頭を撫でながら、傷付けない様に。 「み、……っ、な…き、……」 「……苦しいか?」 「こわ、い…」 「俺が怖い?」 一度口を離し、酸素を大きく吸い込む皐月へ問いかける。 塗れた唇が垢抜けない顔立ちには似合わなくて妙に色っぽい。 呼吸を落ち着かせると、目を逸らし小さな声で呟いた。 「………優しくされるのは、知らないから。」 あぁ。 なんて、悲しい言葉なんだろう。 「痛くないのも、苦しくないのも初めてだから怖い。……これで…俺、アンタの求めてる通りなのかって…不安になる。」 「…俺はお前が怖がる事はしたくない。でも、きっと間違えて覚えてる。キスもセックスも痛くない。恋人同士が幸せになれるものなんだ。」 「……幸せ。」 皐月は一度目を伏せた後、濡れた目で俺を見上げた。 不安と期待と 次へ踏み出す勇気を乗せて。 「…教えて。」 「怖かったら殴ってでもやめさせろよ。」 「なんでアンタはすぐに殴らせようとするんだ。」 「本当は殴ってでも逃げていいからだよ。馬鹿。」 そっか、と笑う皐月にそうだ、と言い聞かせる。 右手を頭の後ろへ添え、左手は皐月の右手の指と絡ませる。 頭に触れる手に皐月の左手が触れるのと同時に唇を重ねた。 「ん、っ……」 篭った声 漏れるような息の音だけが聞こえる 熱い 溶けるみたいなキス 「……っ、ぅ……」 「…やめるか?」 「へ、いき…」 熱い舌に舌を絡ませて 必死に逃げる舌を捕まえる たった数十秒が 永遠のようで 冷たくて 優しくて 儚い そんな口付け 「ふ、っ……ぁ、……」 「物足りなかったか?」 唇を離すと、二人を繋ぐように線を引く。 引き抜く舌を追うように皐月の舌が伸びてからかうように呟いた。 と。 「……い"、って…!」 「調子乗るな、……っ」 「だからってお前、顎殴るなよ。舌噛んだらどうすんだ。」 「アンタが殴れって言ったんだろ。」 「……ムードねぇな。」 濡れた口を服の裾で拭きつつ、殴られた顎を抑えると皐月は腕で顔を隠して真っ赤な顔で俺を見た。 あぁ、可愛い。 なんて頭にそれだけの文字が浮かんだ。 キスだけでこんなに溶けるならその先は…なんて思ったがそれ以上いえば顎どころじゃなくなるだろう。 「どうだった、優しい大人のキスは。」 「………っ、ぁ……、た…」 「…あ?」 モゴモゴと口を抑えながら言う皐月へ耳を近付ける。 やっと聞き取れるくらいの小さな声で 「……幸せ、だった。」 なんて言うから。 「そりゃよかった。」 そんな感情だけでコイツを満たしてやらなきゃなと、小さは頭をめちゃめちゃに撫でながらそう胸に刻んだ。

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