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その男は確かに俺の目を見ると一度瞬きをして、何も無かったかのように黒板の前へ立った。 ぐるりと一度教室を見回すと手元の座席表へ目を向け、それから俺へ目線を向けた。 何か、言われる。 そう思い体を強ばらせるけれど男はじっと俺を見た後に冷たい声で 「号令、楠本(クスモト)。」 とだけ言った。 俺はポカンとして、ただその男の目をみつめ返す。 …号令? 「聞こえなかったか?号令だ。」 「…き、……起立。」 2度目の呼びかけでやっと意味を理解出来た。 慌てて呼びかけるとクラス中が立ち上がりガタガタと机や椅子の音が響く。 俺も急いで立ち上がり小さく息を吸い込む。 「礼。」 「おはようございます。」 「着席。」 決められた挨拶をし終えると、男はチラリと俺を見ては満足げにニヤリと笑った。 第一印象は最悪だ。 男はチョークを手に取ると何も言わずに縦1列に漢字を三つ並べた。 皆木 優 男は振り向くとチョークでその名前の横を突きながら優しげな声で言った。 「皆木優(ミナキユウ)だ。今日からお前ら、三年生特進クラスの授業を受け持つことになった。よろしくな。」 …なんだ。 第二印象は思ったよりもいいかもしれない。 優しげで責任感はありそうだ。 「お前ら全員、国のトップレベルの大学に行かなかったら自主退学だ。学校と俺の名前に泥を塗るようなことするんじゃねぇぞ。そんじゃ、そういうことでよろしく。」 前言撤回。 やっぱり性格は相当悪いらしい。 意地悪そうに笑う皆木の顔を見ながら思わず顔が歪む。 何よりこの男が ソレ なのかと思うとなんというか信じがたくなってきた。 しかし、この感覚は知らなくても確信がある。 確かに ソレ なんだろうと。

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