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三年生初日の今日は保護者への案内のプリントを配るだけで終わりとなった。
荷物をまとめ席を立ちクラスの中を見回す。
皆、それぞれ友達と帰る約束を取り付けて帰っていくが残念ながら俺にそんな中の奴はいない。
いや 今はいなくなってしまった。
昔から一人だった訳では無い。
この世界には3つの人種がいる。
それは生まれた時から決まっているクラスで覆すことは出来ない。
上位層にいるのがα。
下位がΩ、どちらでもないのがβ。
今の俺が人の上に立つ立場でないから、この立場にあるんだろう。
俺は荷物を手に持ち教室を出るともう帰ろうと早足で廊下を歩き出した。
俺は別に誰かと今更仲良くお喋りする気はさらさらないからだ。
少し歩き出し階段へ差し掛かったところでドクンと心臓が大きく鳴った。
身体がおかしい。
じわじわと中から熱が上がり、手足の力が抜けていく。
この感覚は初めてじゃない。
よく知っている。
「は、っ……ぁ、!」
ダメだ、こんな所で。
この学園には飢えたαが大量にいるのに。
俺は口を抑え、手から離れた鞄を床へ放置したまま這いつくばるように階段を降りていく。
ここから離れないといけない。
せめて人の手が届かない位置に。
目の前がクラクラと揺れておかしくなっていく。
「楠本。」
「ひ、っ……!」
「そんな目をするな、喰い散らかしたくなる。目を閉じて意識を落ちつけろ無意識にαを誘惑するな。」
「…なに、言っ…て、……」
俺の名前を呼んだのはさっき俺よりずっと前に教室を出ていったはずの皆木だった。
冷たい目で俺を見下ろしては素っ気なくそう言った。
その言葉にようやくハッとして周りを見回す。
それが全てαかどうかは知らないが、あちこちから確かに視線を感じる。
ただの視線じゃない。
獲物を狙う獣のような、いや発情した狼のような目だ。
「…おい…っ、助けろ…!」
「あ?誰に口聞いてんだ。俺がお前をここに置いていけば立派なレイプ現場が出来るのは間違いねぇぞ。」
「な、…っ…」
「正しく頼んでみろ。」
皆木がしゃがむと目線がぐい、と近くなる。
細めた黒い目が俺を見下ろし拒否権を奪う。
レイプより、まだマシだ。
「…助け、て…くださ、ぃっ…」
「…よく出来ました。早々世話がかかるな。」
皆木はそれだけ言うとニヤリと一度笑い俺の身体を抱き上げた。
周りの生徒をシッシと追い払うように階段を下っていく。
助けられてしまった。
いや、待て。
コイツもαなんじゃ……?
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