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第9話
「ちょっと待て。何してるんだ?」
「……私は晴明に話がある。晴明が来てくれるまで、ここを離れるわけにはいかない」
「いや、だから……晴明って誰のことだよ?」
「……知らないのか? 都で有名な天才陰陽師・安倍晴明のことだ」
「安倍晴明? なんで今更そんな人を……。彼はとっくに死んでるのに」
「……は?」
そう告げた途端、青年がこちらを睨んできた。その目はナイフのように鋭かった。
「またそうやって私を騙すつもりか? これだから人間は……」
「嘘じゃないって。だって今は平成っていう時代なんだぞ?」
「……へいせい……?」
「そうだよ、平成。西暦二〇一八年。安倍晴明って平安時代の人間だろ? 千年以上も前の人間が生きてるはずないじゃないか」
「千年……?」
「ああ。だから、いくらここで待ってても安倍晴明は来てくれないんだ」
ちゃんと説明してあげたのだが、青年は頑なに晴斗の言葉を拒否した。
「……そんなの信じられない」
「本当だって。外に出てみればわかるはずだよ。ずっとここにいてもしょうがないし、とりあえず外に出よう。な?」
「嫌だ。また人間に追われるのは御免だ」
「そんなことしないって。今は平和な時代なんだから。お前のことを見てもコスプレだと思うくらいで、パニック起こすような人はいないはずさ」
「こすぷれ……ぱにっく……? 何を言っているかわからないな。とにかく私は、ここを離れるつもりはない」
「いや、だから……」
いくら言っても、頑としてその場を動こうとしない青年。
こんなところに置いていくわけにはいかないし、どうしたもんだ……と頭を抱えていたら、ある考えがひらめいた。
「あ、じゃあ、安倍晴明に直接会いに行かないか?」
「……晴明に?」
「ああ。俺、晴明さんがいる場所知ってるんだ。案内するから一緒に行こう」
「…………」
青年の目が揺らいだ。やはり「安倍晴明」の名前を出すのは効果覿面 だったようだ。
さんざん躊躇った後、彼はやっとのことで重い腰を上げてくれた。
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