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第8話

「はあ……」  近くで見ても、本当に綺麗だなと思う。姿かたちも美しいけれど、モフモフの尻尾やキツネの耳もすごく気になった。小さい頃から犬や猫と戯れることが多かった身からすると、こんな風に整った毛並みは見ていて無性にそそられるのだ。綺麗だしツヤもいいし、触ったら絶対気持ちいいに違いない。ああ、触りたい……。  この水晶、なんとか割る方法はないだろうか……と、溜息混じりに水晶に触れた時。 「っ!?」  突然、青年がカッと目を見開いた。紫色の瞳がこちらを見据えた。  息を呑む間もなく水晶が砕け散った。  青年は脱力したように膝を折り、二、三度大きく咳き込んだ。 「お、おい……大丈夫か……?」  心配になって近づいたら、 「晴明……」 「……えっ?」 「晴明ーっ!」 「うわあっ!」  覚醒した青年は、晴斗を見るなり凄まじい形相で襲いかかってきた。首元に手をかけられ、そのまま後ろに押し倒される。強かに後頭部を打ち付け、目の裏に火花が散った。 「おのれ、晴明! よくも私を裏切ってくれたな!」 「ちょ、待っ……! 俺、晴明じゃないって!」 「何をそんな戯言を! この飄々とした雰囲気は晴明に決まって……」  青年の台詞はそこで途切れた。首を締め上げていた力は緩み、訝しげに晴斗の顔を覗き込んでくる。 「……晴明……じゃない……?」 「だから……さっきそう言っただろ……」 「馬鹿な……。なら何故封印が解けたんだ……?」 「いや、知らないし。とにかく一度どいてくれよ」  そう頼んだら、青年は素直に退いてくれた。立ち上がって服を叩いていると、彼はやや決まりが悪そうに言った。 「……申し訳ない、人違いをしていたようだ。あなたに危害を加えるつもりはなかった」 「いや、まあ……いいけどさ。それで、お前はなんでここに?」 「……あなたには関係ない。私にかまわず、早くここを立ち去れ」  と、青年は水晶があった場所に座り込み、再び目を瞑った。

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